一体どのようにして食べるのかも気になって尋ねてみたところ、「フライパンでソテーして食べるのが最高だ」と返ってきた。なるほど、魚卵のソテーか。こちらも気にはなるものの、やはり筆者は故郷の味に飢える日本人。これを赤く染め上げて炊きたてご飯の上にのせたい!
こうして、筆者の十八番(おはこ)、「なければつくればいいのよ」精神により、パリの自宅で明太子を自作してみることにしたのである。
作り方は意外に簡単だ。
① 解凍した魚卵に塩をふりかけて、一晩冷蔵庫に入れる。なお、プロのアドバイスによれば、魚卵から出てきた水分と魚卵自体が触れないようにするとよいとのこと。
② 漬ける用の調味液(昆布とかつお節でとっただしに、酒、砂糖、しょうゆ、一味唐辛子を加えて混ぜたもの)を作る。
③ 魚卵の水分をキッチンペーパーで拭き取り、ジッパーつき保存袋に漬け液とともに加え、冷蔵庫で5日ほど漬け込む。

そして5日後、出来上がったのが、添加物なしの自家製明太子である。まさかパリの自宅で明太子が作れてしまうなんて! 困ってしまうほど白米が進む。
その後も、おにぎりにうどんに卵焼きに、自作明太子を満喫した。日本で本物が食べられる日はいつになることやらと思いながら、特製の自作明太子をかみしめる。

こうして自作までするようになると、自然と明太子のことをもっと知りたくなる。
そのルーツを簡単にひもといてみると、明太子はもともと朝鮮半島の伝統食品のひとつだったそうだ。
日本でも身近な存在になったのは、第2次世界大戦以降。朝鮮半島で暮らし、大戦後、博多に引き揚げてきた川原俊夫氏(辛子明太子メーカー「ふくや」の創業者)が、日本人の味覚に合うように独自の加工方法で製品化し、博多中洲で販売したのがきっかけと言われている。その後、福岡市内を中心に続々と製造会社が増え、特に1975年の山陽新幹線の博多乗り入れを機に「博多名物辛子めんたいこ」として、全国的に知名度が高まることとなった。
フランスで自作明太フランスにチャレンジ!
さて、白米もパスタも自作明太子で満喫してきた筆者だが、ここフランスで作るべき逸品を忘れていたことに気づく。本場フランスのフランスパン(バゲット)と自作明太子を掛け合わせた「明太フランス」だ。
明太フランスは明太子の発祥の地、福岡・博多でご当地フードとして誕生し、今では全国区で人気のパンだ。そのブームの火付け役になったといわれる製パン店が、福岡市東区に本店をかまえる国産小麦パン工房フルフル。「博多の名物パンを作りたい」との思いから、2002年に誕生したのがフルフルの明太フランスだ。この意外な組み合わせをどうして思いついたのだろう。フルフルを経営するフルタパン常務の古田真幸さんに、開発にいたる経緯を伺った。
「当時、弊社代表古田は、朝食の際に、トーストした食パンにバターと明太子を塗って食べていました。明太子の他にはイクラや納豆等、あまりパンにはなじまないような食材を組み合わせていましたが、本人いわく『国産小麦のパンだからご飯のお供がとてもマッチする!』と。そんな経緯もあり、明太子に合う、国産小麦を使用したフルフルのフランスパン開発に取り組みました」
今でこそ国産小麦を使用したパン作りは広く普及しているが、その当時、国産小麦でフランスパンを作ることは非常に困難なことだったという。
試行錯誤の結果誕生したフルフルの明太フランスは、3種類の国産小麦をブレンドした外はサクッ、中はモチっとしたオリジナルバゲットに、こだわりの明太子と国産バターで作った明太バターが端から端までたっぷりと詰まっている。約5分おきに焼き上げられ、今では平均1日1500本、多い日には2500本売り上げる、名実ともにフルフルの看板商品なのだという。

なるほど、日本の本場の明太フランスは、国産小麦&バターにこだわり抜いたのがポイントのようだ。それはかなわないが、なんとかしてフランスでも近いものを作りたい! との思いから、自宅で作る際のアドバイスを伺った。ポイントは3点。①明太子はお好みでOK ②バターは乳味の強い国産バターがおすすめ ③仕上げに大葉を刻んだものやブラックペッパー、チーズをかけたアレンジもおいしい とのこと。

早速、近所のブーランジュリー(パン屋)に走る。ミルクの香りが豊かなフランス産のバターも入手し、おすすめトッピング3種を試してみた。焼きたてのバゲットに自家製明太子で作った明太バターが極上のハーモニー! こよいもお気に入りのワインとともに故郷を想いながら至福のときを味わうことにしよう。
パリ在住ライター ユイじょり