日経クロステック

転職の口コミサイトなどを見ると、どの会社も多かれ少なかれネガティブな情報があります(写真はイメージ)=PIXTA

例として、リブセンス(東京・港)が運営する転職情報サイト「転職会議」が公開する記事「『日本一給料が高い』キーエンスの退職理由3つと退職金事情」を見てみましょう。この記事では、口コミを基に大きく3つの退職理由を挙げています。

「マニュアル人間になってしまうことを危惧して」「毎日が同じ繰り返し…」「残業が多く激務が過ぎる」です。いずれも他の会社でもあり得る退職理由でしょう。ここではこの3つを題材に、ネガティブ情報の捉え方を考えてみましょう。

マニュアル人間になってしまう

マニュアル通りの行動が求められることに対して、思考停止・没個性などといった状態になることを危惧しています。しかし筆者は、マニュアルがあることは素晴らしいと考えます。

発展している企業の多くは、BtoB(企業向け)でもBtoC(消費者向け)でもしっかりしたマニュアルを整備しています。マニュアルとはその会社のノウハウを体系化し、明確な業務フローとして定義したものといえます。業務の質やスピードを保つためには重要です。

「マニュアルに従って働くだけでは、個性がなくなってしまう」という人もいます。しかし世界的なエンターテインメント施設やホテルなども、マニュアルをきちんと用意しています。業務の7割がマニュアルに沿っていれば、残りの3割で自分の個性を出しても、その企業の方針に沿った顧客体験を提供できるといわれています。つまりマニュアルは「安心して個性を出すための活動基盤」なのです。

筆者も営業向けのマニュアル作成を手掛けたことがあります。現場の営業担当者にヒアリングしながらつくったのですが、「それがあればとてつもなく売れる」という内容は難しいものの、「継続的に目標の20%増の売り上げを出す」というレベルであればマニュアル化できます。優秀な営業担当者は、表現方法に違いはあっても、無意識にマニュアルを体現していました。

毎日が同じことの繰り返し

マニュアル通りに売れるようになってくると、今度は毎日同じことを繰り返します。そこで問題になるのが、新鮮さやモチベーションの維持です。

筆者からすると、これはとてもぜいたくなことです。同じことを繰り返して目標が達成されるというのは、かなり恵まれた状態です。それは技術職であっても営業職であっても同じでしょう。

当たり前のことを当たり前に取り組もうとしても、様々な問題に直面したり邪魔が入ったりするものです。そう考えると、決まったことの繰り返しで目標達成できるのであれば、恵まれている状態だと思います。

また高いパフォーマンスを出す人は、たとえ毎日が同じことの繰り返しでも、ちょっとした工夫をしたり、既存顧客の関係性を深掘りして強くしたりなど、少しの変化を楽しむスキルを身に付けています。一見同じことをしていても、本人は新しい取り組みを重ねているという意識を持つことができます。

残業が多く、毎日が激務

まずは残業や激務の実態を、定量的に把握することが大切です。「残業が多い」とは何時間を指すのでしょうか。会社によって基準は違うはずです。

激務の基準も人によって異なります。筆者が若手社会人だった昭和の時代、営業の新規開拓で電話アポイントをこなしていましたが、筆者にとっては十分に激務でした。しかし証券会社からの中途入社組は、飛び込み営業が基本。「電話アポイントなどぬるい、評価されるような仕事ではない」と言い切られました。激務といわれる会社も、その実態を知れば「ぬるい」と感じることがあるかもしれません。

このように、一見ネガティブな情報もよく調べれば印象が変わるかもしれません。興味を持った会社があれば、ぜひ試しに応募してみてください。実際に応募してみると書類選考だけでも厳しいことが分かったり、面接で出会う社員から多くのことを感じたりと、今後のキャリア設計に役立つはずです。

天笠 淳(あまがさ・あつし)
アネックス代表取締役/人事コンサルタント
早稲田大学商学部卒業後、IT企業、金融機関にて人事業務を経験。株式会社アネックス、一般社団法人次世代人材育成機構の代表として、働きやすい職場づくりを主なテーマとし、企業の人事、人材開発のコンサルタントを行っている。次世代人材育成機構では、代表理事として、学生の就職活動へのアドバイスや、社会人のキャリア支援を20年以上手掛けている。著書に『転職エバンジェリストの技術系成功メソッド』『オンライン講座を頼まれた時に読む本』(いずれも日経BP発行)がある。

[日経 xTECH 2022年6月23日付の記事を再構成]