そんなある日のこと、駅の通路に置かれた無料の求人誌に目が止まった。何気なく手に取った瞬間、大きな見出しが目に飛び込んできた。
「ウェブエンジニアで生きていこう!」
「ハッとしました。実は僕、小さい頃からパソコンが好きで、高校も情報処理科だったので、プログラミングに挑戦した経験があったんです。だから、ウェブエンジニアだったら自分もなれるかもしれないと」
その日から、ユーチューブやツイッター、グーグルなどに「ウェブエンジニア」「何が必要?」などと打ち込み、情報収集を開始。現役エンジニアが仕事について語る動画を見たり、プログラミングスクールの経営者のアカウントをフォローしたりした。
「自社が運営するシステムの開発を担う『自社開発』の仕事もあれば、他社のシステム開発を請け負うシステムインテグレーター(SIer)として働く道もあることがわかって、自分としては自社開発がしたいなとか、現実的に考えるようになりました。そのために必要なプログラミング言語は何かなど、学ぶべきことも見えてきました」
問題は、多忙な日々の中で勉強する時間がほとんど取れないことだった。本気でウェブエンジニアを目指すためには、すっぱりと会社を辞め、集中して勉強するしかない――。家族、友人、会社の先輩からは「転職のあてもなく辞めるなんて」と猛反対されたが、退路を断つことに決めた。
21年3月末、名鉄を退職。プログラミングの勉強を始めるにあたって、スクールに通うか、独学するか悩んだ。
「プログラミングスクールだと、高いところは3カ月で 60〜80万円くらいの学費がかかります。僕の場合、勉強に専念するためにハローワークでの求職活動はしないと決めていたので、失業保険の給付もないし、大した貯金もありません。だから、本当にプログラミングスクールに行かないとダメなのか見極めようと思い、1カ月限定で5万円というスクールに通ってみました。その結果、独学でもやっていけそうだと判断しました」
スクールではウェブページ作成の基本であるHTMLやCSSという言語を学び、独学を始めてからは、月額約1000円で学べる初心者向きのProgate(プロゲート)やドットインストールなどの学習サイトを最大限活用。JavaScript やRuby、Ruby on Railsなどの言語を学んでいった。半年たった頃からは、現役エンジニアとエンジニア志望者が参加する会員制オンラインサロンにも参加した。
「ここは月額約1万5000円でウェブ系の自社開発企業に転職するための詳細なロードマップを閲覧できたり、現役エンジニアのメンター陣に質問したり、ポートフォリオ(実際に手掛けたアプリやウェブページの作品集)のレビューを受けたりできるサロンでした。僕は転職活動している他の方のポートフォリオを見て、スキルレベルを確認するのにも活用していました」