日経Gooday

飲酒量で分析するとJカーブ、Uカーブは存在

対象としたのは、UK Biobankという研究に参加した、英国の37万1463人(平均年齢57.0歳、46%が男性)です。UK Biobankは、遺伝的素因や環境要因が病気のリスクに与える影響を検討する目的で、大規模な集団を長期にわたって観察しています。

今回は、参加者の習慣的な飲酒量と心血管疾患(高血圧、冠動脈疾患、心筋梗塞、脳卒中、心不全、心房細動)の関係を検討しました。

参加者のうち、12万1708人(33%)が高血圧で、2万7667人(7.5%)が冠動脈疾患(心筋梗塞や狭心症など、心臓の冠動脈に起きる病気の総称)を持っていました。1週間あたりの飲酒量の平均は9.2ドリンクでした。この研究における1ドリンクは純アルコール14gとされており、これは缶ビール1缶(350mL)に相当します。

37万人超の参加者を、1週間あたりの飲酒量に基づいて以下に分類しました:「非飲酒者」、「少量飲酒者(8.4ドリンクまで)」、「中等量飲酒者(8.4ドリンク超から15.4ドリンクまで)」、「多量飲酒者(15.4ドリンク超から24.5ドリンクまで)」、「アルコール乱用レベルの飲酒者(24.5ドリンク超)」。

少量飲酒者の飲酒量の平均は4.9ドリンク/週で、摂取していたアルコール飲料は38%がビール、29%が赤ワイン、24%がシャンパンまたは白ワイン、6%が蒸留酒、3%が強化ワイン(シェリー、ポート、マディラ)、0.2%がその他でした。多量飲酒者の飲酒量の平均は21ドリンク/週で、内訳は38%がビール、24%が赤ワイン、28%がシャンパンまたは白ワイン、7%が蒸留酒、2%が強化ワイン、0.1%がその他のアルコール飲料でした。

まず、各群の高血圧、冠動脈疾患、心筋梗塞、脳卒中、心不全、心房細動の患者の割合を調べ、続いて、非飲酒者を参照とした各群のそれら心血管疾患のリスクの大きさを評価しました。その結果、これまでの報告と同様に、いずれの疾患についても、患者の割合とリスクの大きさの両方が、飲酒量との間にJ字型またはU字型の関係を示しました。

その後、各群の喫煙習慣、BMI(体格指数)、自己申告した身体活動量、野菜の摂取量、赤身肉の摂取量、自己申告した健康状態に関する情報を得て、健康的な生活習慣と飲酒量の関係を検討しました。その結果、少量から中等量の飲酒者は、非飲酒者に比べ、喫煙本数が少なく、BMIが低く、身体活動量は多く、野菜の摂取量は多いなど、より健康的な生活を送っており、自己申告した健康状態も良好だったことが明らかになりました。

そこで、喫煙習慣、BMI、運動量、野菜の摂取量、赤身肉の摂取量、健康状態という6つの要因を考慮して分析したところ、少量飲酒者の心血管疾患リスクの低減は、引き続き有意ではあるものの非飲酒者との差は小さくなり、中等量以上の飲酒者では、非飲酒者との差は有意ではなくなりました。

「飲酒習慣に関係する遺伝子」に基づく分析ではJカーブが消失

ここで著者らは、メンデルランダム化解析を行いました。飲酒習慣に関係する遺伝子として、アルコール使用障害(アルコール分解能力の低さ)に関係する一塩基多型(長い遺伝子配列の中で、特定の1カ所の核酸塩基だけが変異している現象)で、喫煙習慣、BMI、身体活動量、野菜の摂取量、赤身肉の摂取量、健康状態などに関係しないものを選びました。これらの多型を持つ人はお酒に弱い、つまり、飲酒量が少ないと推測することができます。実際に、参加者におけるそれらの多型の存在は、飲酒量と強力に関係していましたが、健康な生活習慣を示す6要因との間には有意な関係を示しませんでした。

そこでまず、従来から用いられている線形のメンデル無作為化解析を行ったところ、多型の存在に基づいて遺伝的に予測される飲酒量が1標準偏差(SD)増加するごとに、高血圧のリスクが1.28倍、冠動脈疾患のリスクが1.38倍、心筋梗塞のリスクは1.37倍、脳卒中のリスクは1.26倍、心不全のリスクは1.39倍、心房細動のリスクは1.24倍になることが示されました。

続いて行った、非線形のメンデル無作為化解析では、飲酒量と高血圧リスク、冠動脈疾患リスクの間に非線形の指数関数的関係の存在が示唆されました。すなわち、非飲酒者と比較すると、少量しか飲まない人でもそれらのリスクは高く、飲酒量が増えるにつれてリスクは急激に上昇していくと推測されました。心筋梗塞、心不全、脳卒中、心房細動、そして、あらゆる原因による死亡も、飲酒量との間に同様の傾向を示しました。

今回得られた結果は、ごく少量しか飲酒しない人でも非飲酒者と比較した心血管リスクは高くなること、飲酒量とリスクの関係は直線的ではなく指数関数的で、飲酒量の増加がリスクの顕著な増加をもたらす可能性を示し、適度な飲酒が心血管疾患のリスクを減らすという従来の定説を否定しました。

[日経Gooday2022年7月8日付記事を再構成]

大西淳子
医学ジャーナリスト。筑波大学(第二学群・生物学類・医生物学専攻)卒、同大学大学院博士課程(生物科学研究科・生物物理化学専攻)修了。理学博士。公益財団法人エイズ予防財団のリサーチ・レジデントを経てフリーライター、現在に至る。研究者や医療従事者向けの専門的な記事から、科学や健康に関する一般向けの読み物まで、幅広く執筆。

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