「今」だからこその音声

北野 緒方さんはプラットフォームを運営されている側の人ですが、プラットフォームを使うクリエーターにしてみると、使いやすくてビジネスになるなら、正直プラットフォームは何でもいいんですよね。

ビジネスパーソンをターゲットにしたコンテンツだと、その内容の大半は「ロジック」や「知識」になると思います。でも、そうしたロジックや知識って、多くは既に誰かが考えたものにプラスアルファを加えた「再生産」がほとんどで、簡単に新しいものが生まれるわけではありません。

あとはいかに、作り手の人間味や感情をうまく乗せられるか。そうすると、人間味や感情が乗せやすい音声は、相性がいいと感じる作り手は多いだろうと思います。

緒方さんは、もし10年前だったら、ボイシーってうまくいっていたイメージはありますか?

緒方 うーん、ないなー。やっぱり、みんなが文字や動画に飽きてきたとか、フェイクニュースにうんざりして信頼感がある情報がほしいと思い始めたとか、ワイヤレスイヤホンが普及して「聴く」という体制が浸透してきたとか、そういう要素の掛け算があっての今なんだと思います。

人って、利便性だけで動くわけじゃない。特にエンターテインメントが絡んでくると、もっと「心が揺らされるか」「安心できるか」といった“気持ち”が重要になります。そこに、ウソがつけない、ウソが少ないメディアとして音声がハマったから「今」なのかなという気がします。

北野 確かに、音声のテクノロジー、「ボイステック」っていうのは、もっと前からあったわけで、そこに今の、人びとの感情や求めているもの、ビジネスが重なってきての「今」なんでしょうね。

緒方 あと、「本人性」みたいなものを世の中が欲し始めているようにも感じます。

例えばブロックチェーンの技術は前からあったわけですが、NFT(Non-Fungible Token:非代替性トークン)のように、実在性を技術で担保することが求められるようになっている。情報にもモノにも流通革命が起こって、ニセモノもホンモノもごちゃまぜになって大量に流通するようになったけれど、「流動性だけじゃダメだ、信頼性や本人性が大事だ」ということになってきたのかもしれません。

あおらず、“染み込ませて”いきたい

北野 僕が音声の広がりに可能性を感じたのって、少し前に美容院に行ったとき、アシスタントの人から「あれ? 北野さんってボイシーでしゃべってます?」って聞かれたときなんですよ。リーチしている層の幅広さがすごいな、と。

緒方 今、インターネットの世界って、ターゲットを明確に絞って「ニッチに攻める」ことばかり狙ってるんですよね。僕もよく、「ターゲット層は?」って聞かれるんですけど、そのたびに「全員です」って答えるんです。

高齢化が進んでいますし、老眼で文字が読みにくくなっている人が増えています。子どもたちも、音声入力を使えば文字を覚える前にタブレットやスマホが使える。自分で「アンパンマン」って音声で検索してYouTubeを見ているような「ボイスネーティブ」が生まれています。

老若男女が使えるし、さらに、何かしながらでも聴けるので、行動も制限されない。みんなの生活の中にどんどん“染み込んで”いける。これまで画面の世界では届いていなかった層にも届くので、インターネット人口をめちゃめちゃ増やせます。

北野 ただ、緒方さんのサービスは、あんまりあおって一気にユーザーを広げようとはしていないですよね。例えばクラブハウスは、Fear of Mission Out(フィアー・オブ・ミッシング・アウト)、みんなが楽しんでいることを聞き逃す恐怖、取り残される恐怖を利用して一気に広がりましたが、そういうネガティブな感情を利用してあおったりはしない。

緒方 社会の隅々にまで浸透させたいと思うと、あおって早く広げるやり方は違うかな、と。いかにヘルシーに浸透していくかが大事だと思うんです。わっと話題になって、誰もが「使わないと乗り遅れる」と思うようになって全員に広がるのか、それとも、じわじわ染み込んでいって、「いつの間にか誰もが使うようになっていた」となるか。

次のページ
市場にさらされないと「素晴らしい作品」は生まれない