少年誌に収まらない表現も受け入れ

「知性と品格と反骨の業界ナンバー1青年漫画誌」と、「ビッグコミック」は掲げている。「反骨」が盛り込まれているところがこの雑誌の持ち味を感じさせる。白土氏の「カムイ外伝」をはじめ、女性受刑者が主人公の「さそり」、架空の海上自衛隊空母を舞台とする「空母いぶき」、中国の墨家を描いた「墨攻」などで、芯(しん)の強いキャラクターを描き出してきた。

「ビッグコミック」の中熊一郎編集長

だが、中熊氏は「ビッグコミックらしさは意識していない。むしろ、『らしさ』を持たないように努めている」という。従来イメージにとらわれて、マンネリ化するのを嫌うからだ。同誌は歴史的な経緯もあって、大人向け漫画誌の「保守本流」とみられがちだ。「ゴルゴ13」のほか、ちばてつや氏の相撲漫画「のたり松太郎」、黒鉄ヒロシ氏の「赤兵衛」などの長期連載が同誌の軸をつくってきたが、「長期連載にはムードと読者の固定化を招くリスクも伴う」と、ヒット作へのもたれかかりを戒める。

テーマや読まれ方の固定化を嫌う中熊氏だが、「プロフェッショナル路線というのは、読者の支持を得てきた要素の1つ」と認める。ホテルスタッフを主役に据えた「HOTEL」や、画商が主人公の「ギャラリーフェイク」、落語界を描いた「寄席芸人伝」、魚市場が舞台の「築地魚河岸三代目」など、業種・業界を限定した専門家を取り上げた作品は同誌のファンを増やした。

中熊氏が推す、直近の連載スタート作品「辛辣なるグルメ」では、孤高の料理評論家が舌鋒(ぜっぽう)をふるう。テレビドラマ化された「監察医 朝顔」で原作を担当した香川まさひと氏を「ビッグコミック」の連載陣に迎えた(作画は若狭星氏)。こうした新連載は雑誌を陳腐化させないうえで欠かせないが、新たな書き手の獲得は容易ではない。「漫画雑誌の間では作家の囲い込みや奪い合いが常態化している。簡単には手放してくれない」(中熊氏)

魅力的な新連載を始めるには、描き手の確保が不可欠だ。50歳代が主な読者の同誌は「先細りリスクをはらむ」(中熊氏)。読者層を広げるうえでも新鮮な書き手が求められる。しかし、「大御所の居場所」というイメージのある同誌は企画の持ち込み先としてはハードルが高く映りがちだ。「実績を重ねて、最後に連載を持つ雑誌という見方をしている漫画家も少なくない」(中熊氏)という。

新たな漫画家を呼び込むために中熊氏が取り組んでいるのは、「編集者ごと来てもらう方式」だ。優れた漫画家とつながりを持つ編集者に「ビッグコミック」編集部への移籍を持ちかける作戦。別の漫画誌の編集部から編集者をスカウトするわけだ。「編集会議で議論してもすぐにアイデアが出てくるわけではない。むしろ、よそで実力を証明しつつある漫画家を、編集者ごと招き入れるほうが現実的」という。

少年向け漫画誌で頭角を現した漫画家を呼び込むのも「ビッグコミック」の手法だ。「少年誌では許されない表現がビッグコミックではできる」という誘い文句が多様なストーリーや描写を望む漫画家の心を動かす。「少年誌にはおのずからリミッターがあり、大人の世界は描きづらい。そういった制約への不満を感じる漫画家たちの受け皿になっている」という。

次のページ
大御所作品と新連載の好バランス