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小学館の漫画雑誌「ビッグコミック」は大人が読み応えを感じる漫画誌というジャンルを確立した雑誌だ。狙撃のプロが主人公の「ゴルゴ13」が連載されていることでも知られる。1968年の創刊から54年。同時期に相次いで誕生した青年漫画誌が姿を消す中にあって、このジャンルの代名詞的な存在であり続けている理由に迫った。

そもそもなぜ「ビッグ」なのか。理由ははっきりしている。創刊当初に当時の「大御所漫画家」5人をそろえたからだ。その顔ぶれは白土三平、手塚治虫、石森章太郎(当時)、水木しげる、さいとう・たかをの各氏。圧倒的なビッグネームのそろい踏みには「ビッグコミック」の名前がふさわしかった。当時の人気漫画家にはほかにちばてつや氏や横山光輝氏がいて、彼らも後に同誌に迎えられている。

「ビッグコミック」は大人向け漫画誌の第1号ではない。既に「漫画サンデー」や「週刊漫画アクション」などが先行していて、「青年漫画」と呼ばれる、大人向け漫画誌のマーケットが芽生え始めていた。団塊の世代が少年漫画誌の次に読む漫画メディアとして大人向け漫画誌が用意された。

しかし、当時は中小出版社が版元になっていて、大手の出版社が本格的にこの市場へ乗り込んだのは、「ビッグコミック」が先駆けといえる。その後、大人向けの漫画誌は創刊が相次ぎ、少年向けに続く大きなマーケットに育っていった。 

「ビッグコミック」はさいとう・たかを各氏の追悼号(左)を組んだ

「ビッグコミック」はさいとう・たかを各氏の追悼号(左)を組んだ

5大作家を集めたのは、創刊に寄せる期待感の大きさからだろう。大手出版社ならではの自負もにじむ。それぞれの作品内容からも読み物としての奥行きを持たせたいという編集サイドの意図がうかがえる。たとえば、手塚氏は「地球を呑む」で男性と文明社会に破壊を仕掛けるストーリーを打ち出し、石森氏は「佐武と市捕物控」で江戸時代を舞台に人情ミステリーを描いた。

創刊当時を追ったノンフィクション「ビッグコミック創刊物語」(滝田誠一郎著)では、創刊編集長だった小西湧之助氏の編集方針を「『オール読物』や『小説新潮』のような中間小説雑誌を目指す」と説明している。現在の編集長を務める中熊一郎氏は「ビッグネームの作品を柱に据えるのは、創刊当初から変わらない。しかし、今は比較的若い作家の掘り起こしにも力を入れている」という。

「ビッグコミック」の「顔」と呼べる長期連載作品が「ゴルゴ13」だ。さいとう氏は創刊当初から5大作家の一員として名を連ねているが、作品は「ゴルゴ13」ではなかった。「捜し屋はげ鷹登場!!」だ。実は「ゴルゴ13」の連載が始まるのは、創刊から約半年後になってから。だが、主人公・捜し屋の髪形や表情には、「ゴルゴ13」の主人公である狙撃手・デューク東郷につながる特徴がはっきりと見て取れる。

さいとう氏は2021年9月に亡くなったが、現在も「ビッグコミック」誌上で「ゴルゴ13」の連載は続いている。「自分に何かあっても、連載は続けてほしい」と語っていたさいとう氏の遺志に沿ってのことだ。さいとう氏は原案から構成、脚本、作画までの全作業を分業でこなす集団プロダクション制を練り上げたことでも有名だ。

しかし、いざ本当にさいとう氏不在の状況でこの仕組みを回していくのは、容易ではなかったようだ。万が一に備えた、緻密な分業体制を組み上げてはいたものの、本当に連載が続けられると判断できたのは、ぎりぎりのタイミングだったという。中熊氏は「担当編集者がさいとう・プロダクションと一緒に奔走した。さいとう・プロのスタッフと築き上げてきた、長年の連携が生きた」と振り返る。

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