かつて中国の北宋時代に欧陽脩という著名な詩人・政治家がいて、いいアイデアがひらめく場所として「馬上、枕上、厠上」と語ったといわれる。枝川教授は「現代風に言えば電車に乗っているとき、寝ているとき、トイレの中という意味ですが、要は何もすることがなくボーッとする場所。昔の偉人は言い得ていたわけです」と指摘する。最近では1人でキャンプをするソロキャンプがはやっているが、「ボーッと何時間もたき火をするのはDMNの活性化やワーキングメモリの機能回復には有効だ」という。

次にワクワク、最後は没頭で生産性向上

枝川義邦・早大理工学術院教授

次に枝川教授が対処法として挙げるのが、ワクワクすることだ。脳内で楽しい、気持ちがいいと感じると「ドーパミン」という神経伝達物質の分泌が促される。枝川教授は「ドーパミンの分泌量の増加が、ワーキングメモリの機能を高めるという研究結果がある」と話す。コロナ下で食事や買い物に出かけたり旅行に行ったりすることははばかられる中、家族など身近な人たちと屋内で楽しめる趣味や活動をするのは効果的かもしれない。

最後に挙げる対処法が、没頭する時間をつくること。読書したり絵を描いたりするほか、瞑想(めいそう)することも有効だという。なぜスマホはダメで、本を読むのはいいのだろうか。「スマホの画面を見ていると、どんどんいろんな情報が視覚に飛び込んでくるからです」と説明する。「1つの記事コンテンツを読んでいても、突然、広告の動画が始まったりニュース通知が来たりして、気が散るわけです」

ワーキングメモリに一気に様々な情報が押し寄せると、脳は混乱してストレス状態になる。しかし読書で1つのコンテンツに集中しているときは、ワーキングメモリが自然と整理・統合されてゆくという。

スマホが普及し始めたのはこの10年だが、多くの人にとって一日中手放せないデジタルデバイスとなった。枝川教授は「今の人たちは無意識的にスマホやパソコンを使っているというよりも使われすぎている。脳が疲労どころか過労状態になっているビジネスパーソンは少なくなく、物忘れや単純ミスが積み重なり仕事の生産性も下がると思います」と警鐘を鳴らす。

新たなデジタルデバイスの登場で、情報の洪水が脳にいっそう押し寄せてくる。スマホとの距離を保ち、一日の中でボーッとしたりワクワクしたり没頭したりする時間をつくった方がいいかもしれない。

(代慶達也)

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