DX(デジタルトランスフォーメーション)の時代、医療はどう変わっていくのか。生活習慣病の代表格ともされる糖尿病の専門医で、1990年代後半~2000年にかけて医療情報ポータルサイト(MediPro/MyMedipro)を立ち上げるなど、デジタル領域についても豊富な知見を持つ鈴木吉彦医師(HDCアトラスクリニック院長)に医療とデジタルの新時代について語ってもらいます。
第2次世界大戦後、父は帰郷し東北大学医学部を卒業しすぐ開業医となりました。貧窮した家族を養うためでした。専門は呼吸器内科。当時は結核が深刻な病気で、結核治療薬は1回の注射がサラリーマンの月給になる程の高価な薬剤だったそうです。
父が医学部卒業当時の「日本結核学会」はすごい人気で、学術集会が開かれると、学会員が会場にあふれていたそうです。ところが、特効薬が発売され結核患者が激減すると、学術集会に参加しても数人がいるだけになったといいます。
「スペシャリティーは、いずれコモディティー化する」と日常会話で使います。医療分野でも、特効薬がひとつ製品化され発売され、コモディティー化することがあります。その結果、「メジャー」分野が「マイナー」分野に変わってしまうことはあり得るのです。
1983年、私が大学を卒業したばかりの頃、東京都済生会中央病院に勤務するための面接をうけました。すると、「君は変わっている。糖尿病を専攻したいと求職してきたのは君が初めて」と言われました。
つまり、当時の糖尿病はマイナー中のマイナー分野で誰も専攻したいと思わず、たとえ開業してももうからないし、つぶしがきかないと考えられていました。
その後、人間ドックや健康診断で血糖値やHbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)を調べることが普通になり、たくさんの糖尿病患者が見つかり、医薬品市場は拡大し開業医でも利益がでる医療分野になりました。以前はマイナーとされていた医療分野が、こんなにもメジャーと考えられるのかと時代のギャップに驚きます。
