店内の券売機。小親子丼もおすすめだ

本年3月の開店後も、スープの味をどんどん進化させているという。「当初『醤油』は鶏の素材感を前面へと押し出した形で提供していましたが、お客さんの様子を観察していると、後半に至るにつれて、食べ飽きてしまっている方が多いような気がしたのです。そこで、本枯れ節を加え、うま味の種類に幅を持たせることにしました」

トッピングにまで及ぶ丁寧な仕事ぶり

現状に満足することなく、常に味を進化させようとする姿勢は、他店の模範となり得るものだ。これらのスープに合わせる麺も、「中華そば(塩)」と「中華そば(醤油)」とで、異なるものを使い分けるこだわりよう。

「『塩』に関しては、鶏の素材感が損なわれないよう、タレのうま味を適度な塩梅(あんばい)へと抑え込む必要がありました。タレのうま味を控えめにすれば、当然、スープの味わいは穏やかになります。なので、麺も、スープに合わせて、極端に太くないものを使うことにしました。他方、『醤油』は、パンチのある味わいを演出するために、スープのうま味を強めにしています。なので麺も、スープに負けないよう、太く、ゴワっとした食感があるものを用いることにしました」

どちらに使用する麺も、スープがより絡みやすくなるよう、提供前に入念な手もみが施される。「『塩』の麺は、スープが軽めなので軽く、『醤油』の麺は、スープが強めなので強くもんでいます」。スープとの相性を考慮し、もみ方まで変化を加える。寸分の手抜かりもない、まさにパーフェクトな仕事ぶりだ。

丁寧な仕事ぶりは、トッピングにまで及ぶ。メンマはスープの邪魔にならないよう味付けを淡くし、チャーシューは、無料トッピングとして「わさび」を別皿で提供することで、食味にバリエーションを持たせるなど、食べ手の箸とレンゲを持つ手を最後まで止めさせないためのギミックが、徹底的に施されている。

「お客さまに、おなかいっぱいになってもらい、幸せな気持ちで帰路についてもらいたい。これからもずっと、そんな気持ちを忘れずに営業を続けていきたいと思います」

うま味がしっかりと入った親子丼の「若鶏のモモ肉」を頬張りながら、ラーメンの丼を両手で持ち上げ、グイっとスープを飲み干す。湧き上がる幸福感は、間違いなく本物。食べ終わる頃には、心身ともに極上の満足感に包まれていることだろう。

(ラーメン官僚 田中一明)

田中一明
1972年11月生まれ。高校在学中に初めてラーメン専門店を訪れ、ラーメンに魅せられる。大学在学中の1995年から、本格的な食べ歩きを開始。現在までに食べたラーメンの杯数は1万4000を超える。全国各地のラーメン事情に精通。ライフワークは隠れた名店の発掘。中央官庁に勤務している。