そんな状況下でも国分が発売に踏み切ったのは、そのまま安売り競争を続けていたら「缶詰に未来がなくなる」という危機感があったから。高付加価値の商品で缶詰の価値を底上げしようという開発陣の並々ならぬ熱意があったのであります。

缶つまは海外の料理も積極的に取り入れている

メーカーの誇りを取り戻せた

缶つまがユニークなのは、すべての商品を酒のつまみとして開発した点だ。酒飲みにはグルメが多く、おいしいものには金を惜しまない傾向がある。比較的高価でも需要はある、と見込んだワケだ。

販売手法も革新的で、従来の缶詰売り場だけではなく、酒売り場に並べてもらうよう小売店に提案した。今でこそワイン等の隣に缶詰が並んでいることは珍しくないが、その販売手法の先駆けは何を隠そう缶つまだったのである。

他にもイベントなど認知度を上げる活動を積極的に行い、毎年春秋には新商品を投入。その結果、売上額は発売初年で1億8000万円を達成し、翌年はほぼ倍増。14年には20億円まで達した(いずれも出荷ベース)。発売から4年で、実に10倍近く売り上げを伸ばしたことになる。

この大ヒット商品は、製造現場の意識まで変えてしまった。それまで原価をいかに下げるかということに、頭を悩ませていたが、一転して高品質な原料を調達し(ブランド魚介類など)、飲食店レベルのおいしさを追求することになったのだ。当時、缶つまを製造している某工場の人に聞いたセリフが今も忘れられない。

「缶つまを造ることになって、缶詰メーカーの誇りを取り戻せた気がします」

いなば食品が初期に発売したタイカレー2種(現在はどちらも終売)

家に常備しているという人も多いのが、いなば食品のタイカレー缶だ。11年に初登場した「ツナとタイカレー」は、その本格的な味がSNSで拡散され、じわじわと販売数を伸ばしていった。グルメ漫画「めしばな刑事タチバナ」で紹介されたこともあり、大ヒット商品になった。生産が追いつかず、スーパーの棚から姿を消すこともたびたびで、いなば食品は当時「鋭意、製造中です」といった新聞広告を出したほど。

その後、ツナの他にチキンが具に加わり、インドカレーやスパイスカレーなどカレーの種類も多彩になった。しかし、発売当初の具がツナだったのが、この缶詰の缶所(勘所)。実はタイカレーは、ツナ缶のバリエーションとして開発されたのであります。

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ブランド価値を上げるための一手