ヨモギが入ったサルデーニャ島「ベルモット・ロッソ」

左がガンチアのベルモット・ロッソの古酒、右がサルデーニャ島のシルヴィオ・カルタ社のベルモット・ロッソ

もう1つは、イタリア半島西に浮かぶサルデーニャ島のシルヴィオ・カルタ社の「ベルモット・ロッソ」。同社は50年代設立の新しい蒸留所だ。第2次世界大戦中に国から農産物やワインの供出を求められたサルデーニャ島民は、ワインを樽(たる)ごとやぶの中に隠すことがあった。そのとき、やぶに咲いていたムギワラギクの香りがワインについたことから、ベルモットの製造を思いついたという。サルデーニャのブドウ品種、ヴェルナッチャのワインをベースに、ヨモギやセージ、タイムなどのハーブやスパイスを使う。日本でも生薬として使われるヨモギは血行促進作用があり、セージやタイムは強壮と殺菌の働きがあるとされる。食前にベルモットを飲むというのにも、納得がいく。

イタリア語で「アペリティーヴォ」と呼ばれる食前酒は、その語源が後期ラテン語であるところから、古代ローマ時代のハチミツ入り風味付けワインが始まりと考えられる。また、古代ギリシャの植民地があった南イタリアの食前酒には、ギリシャの医師ヒポクラテスの影響があったかもしれない。ヒポクラテスは、白ワインにニガヨモギやハナハッカなどを漬けた苦味の食前酒によって、患者に食欲を起こさせたとされる。18世紀後半に作られたベルモットも考え方は同じだ。

ずらりと並んだ産地や味の異なるアマーロ

さて、イタリア料理を思いきり味わったあと、消化を助ける食後酒はどういうものがあるだろう。こちらは、ブドウの蒸留酒にハーブやスパイスを浸漬させて糖分を足したリキュールが多い。

「『ヴィンサント』などのデザートワインと混同されがちですが、デザートワインはあくまでデザートとともに楽しむワインで食中酒。食後酒ではありません。最も種類が多く、グラッパに次ぐ人気の食後酒はアマーロ。イタリアの北から南まで、ご当地アマーロがたくさんあるんですよ」と、平野さんはテーブルの上に産地や味の異なるアマーロをずらりと並べてくれた。浸漬する材料にその土地の産品が加えられていくため、アマーロのなかには、ルーコラや野生のフェンネル、カルドンのエキスなどが加えられたものもあるという。

ラ・ヴァルドタイネ社は標高1400メートルの水源を蒸留に利用する(写真提供:モナカ)

平野さんのお勧めは2つある。1つは、イタリア北西部のアルプスの麓にあるラ・ヴァルドタイネ社の「アマーロ デンテ・ディ・レオーネ」。デンテ・ディ・レオーネとは、タンポポのこと。その名のとおり、タンポポのほか、リンドウ、ニガハッカ、セイヨウノコギリソウ、ニワトコの花、チョウセンアザミ、アンジェリカの根、タイム、セージ、マジョラム、アニスなど、提携農園で栽培したハーブを使う。

蒸留に利用するのは、標高1400メートルの水源の水。こちらのアマーロは苦味と甘みのバランスがとれ、アマーロ初心者にも飲みやすい。ヨーロッパの伝承医学でもアジアの伝統医学でも、タンポポは利尿の働きがあるとされている。

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蒸留所が王妃にささげた「アマーロ・モンテネグロ」