2022/8/29

ガイドライン改定、消極派企業は採用に影響も

22年7月に厚生労働省の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」が改定されました。企業が労働者の多様なキャリア形成を促進する観点から、副業・兼業を許容しているか否か、また条件付きで許容している場合はその条件について情報の公表を促しています。グループ企業についても、副業などについて各社が個別に就業規則を定めている場合は、それぞれの企業がその内容を公表することを求めています。

こうした時流の中で、副業の方針に関して情報公表をしていない、あるいは消極的な姿勢を見せれば、柔軟な働き方ができない企業として、採用活動にも影響を与えかねません。ガイドラインに強制力はないものの、特に副業の解禁が遅れている大企業にとって、実質的なインパクトは大きいと言えるでしょう。

そこまでして、なぜ国が副業を推進しようとしているのでしょうか。

現政権が目指す「新しい資本主義」では、経済を立て直し新たな成長軌道に乗せていくために人への投資と分配を掲げています。副業・兼業を推進することで働き手のスキルアップが進み、受け入れ企業の人材不足も解消に向かうと考えられます。しかし、そればかりではありません。社会全体として見れば、社外の技術や知識を取り込んで変革するオープンイノベーションや起業の手段としても有効です。同時に、都市部の人材を地方に生かすという観点から地方創生においても、その進展が大いに期待されています。

今後、成長分野への円滑な労働移動を進めるためにも、個々の企業内だけでなく国全体の規模で官民が連携を図ることが重要になります。副業促進に関するガイドラインの改定もこの一環であり、新しい資本主義のグランドデザインに盛り込まれました。

副業で主体的なキャリア形成を考える時代に

給与の上昇が見込めない閉塞感のなか、これまで副業は、どちらかというと働き手にとって収入を増やす手段として注目されてきました。それが主体的なキャリア形成を促進する手段として、新たな意味を持ち始めています。

副業は企業にとってもプラスの面が少なくありません。副業によって従業員が社内では得られない知識やスキルの獲得をすることができたり、副業がしやすい柔軟な働き方そのものがインセンティブとなって優秀な人材の獲得や流出を防ぐことができたり、事業機会の拡大につながることも期待できます。また、雇用以外の選択肢が広がるメリットもあるでしょう。

もちろん、就業時間の把握や健康管理面への対応はもとより、職務専念義務、秘密保持義務、競業避止義務をどう確保するかといった自社の経営を守るうえで留意すべき課題もあります。しかしながら、そうした対応を考慮しても、従業員の副業を認めて支援する意味は大きくなっていくのではないでしょうか。

副業を通じた起業は失敗する確率が低くなることや、副業をすると失業の確率が低くなるといったことが指摘されています。働き手にとっては、本業での収入を担保しながら、リスクの小さい形で将来的な起業や転職に向けた準備・試行ができるという点においても利点があります。職業選択の幅を広げることになりますし、ミドル以降の世代にとっては、定年後の働き方を見据えたキャリアを考えるきっかけにもなるでしょう。

前述したリクルートによる調査の「兼業・副業を実施して感じたこと」では、「本業の仕事の魅力を改めて感じた」の回答割合が20年版の18.2%が21年版では25%にアップしました。このことが映すように、副業は今の仕事を見つめ直す機会にもなっています。

ここまで見てきたように、副業・兼業が今まで以上に大きな意味を持ち始めています。もっとも、多様なキャリア形成という視点からすれば、どんな副業でも良いというわけにはいきません。例えば、自分がこれまで培った知識やスキルを生かしてフリーランスの道を探るのか、地方活性化のための懸け橋となるのか、興味のある新規分野に飛び込んでみるのか、副業には様々な可能性があります。自分ならどう生かす手があるか、1度考えてみてはいかがでしょうか。

佐佐木由美子
人事労務コンサルタント・社会保険労務士。グレース・パートナーズ株式会社代表。人事労務・社会保険面から経営を支援。多様で柔軟な働き方の雇用環境整備や女性の雇用問題に積極的に取り組んでいる。働き方やキャリア、社会保障などをテーマに多数執筆。