ただ、その分、仕事は過酷。日本国債や円金利デリバティブ(金融派生商品)、長期為替などのトレーディングの最前線で働いた。1度に数百億円規模のマネーを動かし、一瞬で数億円の損失を出す時もある。米ニューヨークのウォール街や英ロンドンのシティの金融マンと腹を探り合いながら、猛烈な戦いを演じる日々。同期入社の7人は次々姿を消し、田内氏だけが残った。ストレスで疲労困憊(こんぱい)に陥る一方で、「お金とは何だろう」と自問自答するようになった。

田内氏(左)は「お金とは何だろう」と自問自答するようになった

セカンドキャリアを模索しているときに久しぶりに灘高の同期たちと会食した。お金や経済の話題で持論を展開すると、「面白い、本を書いたら」と紹介されたのが灘高の1年後輩の佐渡島庸平氏だった。講談社時代に漫画「ドラゴン桜」や「宇宙兄弟」の編集者として活躍し、作家のエージェント会社、コルク(東京・渋谷)を立ち上げた敏腕編集者だ。

佐渡島氏と出会い、人生が大きく変わった。19年に41歳でGSを退職。「ドラゴン桜2」の編集アドバイザーを任され、高校の社会科教科書「公共」の執筆も担った。そして経済本を出版し、金融教育家に転身した。

医師以外に高収入で多様なキャリアもある

やはり灘OBには医者が多い。臨床医や研究医として社会に貢献する人が少なくない。ただ、中には医学部を卒業後に「自分は向いていない」と金融界に転じてトレーダーになった同級生や後輩もいるという。

実は灘には土曜講座という特別授業がある。田内氏や田中氏も母校から声がかかり、経済やキャリアなどをテーマに講演した。田中氏は灘時代の同級生に年収のヒアリングを実施、土曜講座でその結果を公表した。同講座史上で最も多くの生徒が参加したそうだが、医師以外にも高年収で面白い、多様なキャリアが存在することを伝えた。

「この『お金のむこうに人がいる』という本では、14項目の3択問題を出題しています。クイズ形式にして難しく思える経済や金融の話を分かりやすく伝えている。視野が広がり、将来の自分のキャリアについても考えるようになると思う」と語る。灘OBと絡み合いながら、金融教育家に転じた田内氏。灘の神童は大人になっても、個性豊かで多彩な人たちだった。

(代慶達也)