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「老化細胞」除去で健康長寿へ 紫外線防止や禁煙が鍵

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NIKKEI STYLE

加齢に伴って増え、病気のリスクを高めるとされる「老化細胞」を取り除けば、健康長寿に近づけるかもしれないという考え方が注目され、その方法の模索が進んでいる。2022年11月2日、炎症を引き起こす作用が特に強いタイプの老化細胞が悪玉で、これを除去するのが安全で効率的な老化抑制になるかもしれないという研究が科学誌「Nature」に公開された。研究を行った東京大学医科学研究所副所長で、癌(がん)防御シグナル分野の中西真教授に、老化細胞除去による健康長寿の可能性と、日常で老化細胞を増やさないための対策について聞いた。

「ゾンビ細胞」の名称も 加齢とともに全身で増加

私たちの体の臓器や組織は年齢を重ねるにつれて、その機能が衰え病気にかかりやすくなっていく。そこに大きく関わるとされるのが老化細胞だ。老化細胞は「細胞分裂ができなくなり、本来の役割を終えても体の中になお残っている細胞」のこと。「ゾンビ細胞」という名称で呼ばれるのを聞いたことがあるかもしれない。

体内で細胞のDNAが酸化ストレスなどで傷つくと、異常増殖(癌化)することがある。そんなときに分裂を停止し、老化細胞になることは癌化を防ぐ生体防御の仕組みと考えられてきた。つまり、安全装置的に発生するというわけだ。「さらに近年、老化研究が一気に進み、老化細胞が防御的に働く一方で、増えすぎるとさまざまな組織の老化や加齢性疾患の発症に関わることが分かってきた」と中西教授は言う。

図表1は中西教授が臓器に蓄積する老化細胞を一細胞レベルで可視化に成功したもの。マウスの肺で白く光っている部分が老化細胞だ[1]。「全身にあるほぼ全ての細胞は一定の回数以上は分裂しなくなり、老化細胞になる。加齢とともに時間をかけて徐々に増え、マウスではヒトでいう若年期で全細胞中の0.2~0.3%、中年期で1%弱、老年期で2~3%を老化細胞が占める」(中西教授)。

細胞全体に占める割合こそ少ないが、老化細胞は蓄積すると私たちの体にダメージを及ぼす。「問題なのは老化細胞がSASP(senescence-associated secretory phenotype=細胞老化関連分泌現象)を起こし、炎症性の生理活性物質を分泌すること。SASPが持続的な慢性炎症を起こすと、老化細胞周囲の組織や臓器に機能低下をもたらし、動脈硬化、糖尿病、慢性腎不全、癌、アルツハイマー病といった老化に伴い増える疾患、いわゆる老年病のリスクを高める。そこで、現在、老化細胞を生体内から除去する老化細胞除去薬(セノリティクス)の研究が世界中で行われている」(中西教授)(図表2)。

悪玉の老化細胞を特定 既存薬で除去の可能性も

老化細胞の蓄積が老化や老年病発症を促す要因の一つであるということは分かってきたが、老化細胞は多種多様であり、体内のどこにあるのか、性質はどうなのかははっきりしていなかったという。中西教授はいくつもの実験を経て、老化細胞が生き残るにはGLS1(グルタミナーゼ1)というアミノ酸のグルタミンをグルタミン酸に変える酵素が重要な役割を果たしていることを発見[2]。この酵素がヒトの皮膚でも加齢とともに増えていることを確認した(図表3)。

そこで、老齢マウスにGLS1の働きをブロックする「GLS1阻害薬」を投与したところ、各臓器や組織で老化細胞の除去が確認でき、加齢によって生じるさまざまな臓器や組織の機能低下が顕著に改善した。具体的には腎機能の低下、肺の線維化、肝臓の炎症、動脈硬化が抑えられた。また、GLS1阻害薬を与えたマウスを棒にぶら下げたところ、老齢マウスでは平均30秒ほどで棒から落ちるのに対し、投与群では平均100秒ほどぶら下がることができるようになった。

「ヒトでいえば、握力が70~80代から40~50代に若返ったようなもの。筋肉にも老化細胞が存在し、それが引き起こす炎症により、筋肉を作る筋芽細胞が増えなくなっている。そこに老化細胞を除去したことで、若返りが実現したのではないかと考えている」(中西教授)。

なお、GLS1阻害薬は現在、抗癌剤として米国で臨床試験中の薬だ。その薬が老化細胞の除去にも役立つかもしれないというわけだ。ただ、そもそも悪さをしていない老化細胞まで取り除く必要はないのかもしれない。過度な除去は副作用を招く恐れも拭い去れない。そこで、中西教授はさまざまな種類の老化細胞の中でも特に悪玉の老化細胞を探索。その結果、「PD-L1(Programmed death-ligand 1)老化細胞」がそれだと特定し、成果をNature誌で発表した[3]。

PD-L1はウイルスや癌と戦うT細胞の表面にくっつき、その機能を抑制するたんぱく質のこと。T細胞が敵と戦う勢いを持ったまま暴走して健康な器官などを攻撃しないように、ブレーキ役として働いており、血管内皮細胞やある種の免疫細胞などPD-L1を持つ細胞は体内に広く存在する。一方、賢い癌細胞はこの仕組みを巧妙に利用し、自分を攻撃しようとするT細胞にPD-L1をおびき寄せ、抑制シグナルを伝えて機能不全に陥らせようとする。そこで、癌を攻撃するT細胞にPD-L1が結合しないように作用するのが話題の抗癌薬「免疫チェックポイント阻害薬」だ。

そして、このPD-L1というたんぱく質を持った老化細胞のPD-L1老化細胞こそが、先に触れた老年病の原因となるSASPという炎症物質を大量にまき散らす悪玉老化細胞だと明らかにしたのが、中西教授らによる最新研究。悪玉老化細胞はPD-L1を使ってT細胞にくっついてその力を封じつつ、炎症物質をばらまく(図表4)。

研究により、老化細胞のうち10%程度がPD-L1老化細胞で、加齢とともに増加し、強い炎症性を示すことが分かった。もう一つの発見は悪玉老化細胞にもT細胞との結合を邪魔する抗癌薬「免疫チェックポイント阻害薬」が有効だということだ。

中西教授は「今回の発見ではより悪さをする炎症性の高いタイプの老化細胞の正体が明らかになっただけでなく、臨床ですでに患者に使っている免疫チェックポイント阻害薬が効果的な老化細胞除去薬になり得るということが重要なポイント」と語る。実際、老齢マウスに免疫チェックポイント阻害薬を投与したところ、肺、肝臓、腎臓においてPD-L1老化細胞が減少。さらに、握力が改善したり、肝臓内の脂肪蓄積が減ったりするといった若返り現象が見られたという。 

癌細胞は増殖スピードが速いため、短期間のうちに頻回投与し、徹底的にたたく必要がある。「一方、老化細胞は増殖しない。癌治療とは異なり、数カ月の勝負で減らさなくてはいけないものではない。余計にたまりすぎた分だけを減らせば、組織や臓器の機能を十分に取り戻せる可能性が高い。つまり、老化細胞除去薬として使う場合は本当に悪い老化細胞だけをターゲットにして少量ずつ5年ぐらいかけて投与すれば良く、薬の使用量も少なく済み、副作用を伴うことなく、70代の人が50代レベルの体の機能を取り戻すことが可能になるかもしれない」(中西教授)。

老化細胞除去薬の臨床治験対象として中西教授が想定する疾患の一つは、慢性腎臓病だという。「慢性腎臓病には有効な治療薬がなく、腎不全になると人工透析しか手段がないのが現状。ろ過や再吸収という大切な役割を持つ尿細管上皮に老化細胞がたまりやすいことを確認しており、腎機能が低下してきた人に老化細胞除去薬を投与することによって人工透析への移行を抑制できないかと考えている」(中西教授)。

紫外線の浴びすぎや過度な運動に注意

老化細胞除去薬の開発が待たれるが、一方で私たちがなるべく体内で老化細胞がたまらないよう心がけられることはあるのだろうか。「酸化ストレスや放射線などにより、細胞のDNAに傷がつき、老化細胞が発生することが分かっている。たばこは肺胞での老化細胞増加を促進するので禁煙は必須。また、深いシワができるほど皮膚老化を進める過剰な紫外線も避けたい。軽い運動は呼吸器・心肺の機能を高めて健康に有用だが、過剰な運動は活性酸素を増やしてしまう。ストイックにマラソンやジム通いをすると、どうしても適度なレベルから過度になりがちなので、頑張りすぎに注意したい」(中西教授)。

肥満も慢性炎症を引き起こし、老化細胞が増える要因になるため、適度な体重を保つことも大切だ。老化細胞の除去を目的とする食品成分の研究も複数進行している。例えば、タマネギやリンゴに含まれるポリフェノールのケルセチンはすでに抗癌剤として使用されている「ダサニチブ」という薬との併用によって生体内から老化細胞を除去する可能性があるという[4]。また、イチゴやブドウ、タマネギに含まれるフィセチンというポリフェノールも老化細胞除去活性を持つ候補として研究が行われている[5]。

「身体や脳、空間や時間といったさまざまな制約から人々が解放された社会を実現すること」を目標として日本医療研究開発機構(AMED)が推進する国家プロジェクト「ムーンショット型研究開発事業」で、中西教授は「炎症誘発細胞除去による100歳を目指した健康寿命延伸医療の実現」というプログラムのマネジャーを務めている(図表5)。

「長寿を素直に喜べない人も多い背後には、老化に伴う健康リスクへの不安がある。老化はどうしようもなく避けられないものという認識を老化細胞除去により覆すことができれば、本当の意味で長寿を喜び楽しめる社会になるはずだ」と中西教授は話す。科学の進歩が老いの不安を払拭してくれる社会が現実のものになるかもしれない。

(ライター 柳本操、イラスト 三弓素青)

中西真
東京大学医科学研究所副所長・防御シグナル分野教授。名古屋市立大学医学部卒業。同大大学院医学研究科博士課程修了(医学博士)。国立長寿医療研究センター老年病研究部長室、名古屋市立大学大学院医学研究科基礎医科学講座細胞生化学分野教授などを経て現職。老化細胞と個体の老化制御、加齢に伴う癌発症の解明を専門に研究する。

[1]Cell Metab. 2020 Nov 3;32(5):814-828.e6.

[2]Science. 2021 Jan 15;371(6526):265-270.

[3]Nature.2022 Nov;611(7935):358-364.

[4]EBioMedicine. 2022 Mar;77:103912.

[5]EBioMedicine.2018 Oct;36:18-28.

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