亀戸天神社にもほど近い場所にある「麺ふじさき」

中でも美しいのはスープの色合いだ。「スープの中に吸い込まれるのではないか」と錯覚しそうになるほど艶やかな褐色を呈し、あらゆる食べ手を魅了する。スープは、味蕾から口内全体へと同心円状に広がる『名古屋コーチン』『黒さつま鶏黒王』『奥久慈シャモ』のうま味とコクが、圧巻のひと言。

鶏の上質な風味を「大樹の幹」のように支える、醤油のフローラルな香りも、食べ手を桃源郷の境地へと誘う。聞けば「食べ終わりまで風味が軽くならないよう、カエシに用いる醤油には徹底的にこだわった」とか。淡麗醤油ラーメンの「神髄」に迫る、ラーメンづくりを知り尽くしたアプローチだ。

今後提供予定の「塩らぁめん」や「つけめん」も楽しみだ

スープが舌に触れるたびに、圧を伴いながらグイグイ迫る地鶏の羽音と、口内で勢い良く渦を巻くカエシの風味。終盤まで際限なく増幅し続けるスープのうま味から、店主の本気度がひしひしと伝わってきた。

このスープに合わせるのは、自家製麺。麺肌滑らかで、麺本来のコシが十二分に体感できる切り刃20番のストレート麺は、啜(すす)り上げると、麦の香がフワリと宙を舞う逸品。神奈川で一世を風靡する『神奈川淡麗系』のように、しなやかさを前面へと押し出している点も特筆に値する。

スープの引きの強さと、麺の啜り心地の良さ。両者が見事にかみ合った魅惑の1杯に仕上がっている。「私のラーメンは、いまだ完成途上です。今後ともお客さんに幸福感を抱いてもらえるよう、味に更なる磨きをかけていきたいと思います」(藤崎氏)

実るほど頭が下がる稲穂かな。藤崎氏ほど、この言葉が当てはまる方もなかなか存在しないだろう。

(ラーメン官僚 田中一明)

田中一明
1972年11月生まれ。高校在学中に初めてラーメン専門店を訪れ、ラーメンに魅せられる。大学在学中の1995年から、本格的な食べ歩きを開始。現在までに食べたラーメンの杯数は1万4000を超える。全国各地のラーメン事情に精通。ライフワークは隠れた名店の発掘。中央官庁に勤務している。