②データがないならば集めればいい。新商品の効果測定などは過去の実績がないのが当然なので、新しくデータを集めざるを得ない。だが「集め方」にも作法がある。
本書では歯磨き粉が虫歯を抑える効果があるか、データを集めた企業の例が紹介されている。この企業は歯磨き粉が虫歯をなくすかを実験するために、10人程度の小さなグループを複数用意し、効果を計測した。
「小さなグループを複数」というところがミソである。あるグループは虫歯の数が増え、あるグループの虫歯の数は減るはずだ。ちゃんとした統計は、こうしたデータの偏りをなくすために、集計をする際にある程度の数のデータを集めることとしているが、この会社はそうはしなかった。都合のいいグループの結果だけを集計し、正しいデータとしたのだ。もちろん、よくない行為だが、自分たちの見たい「真実」だけを見てしまう会社員を、あなたも見たことあるはずだ。
③ちゃんとデータが集まったら、その解釈が次の課題だ。よく語られる例ではあるが、例えば「普通」を表す際にも、「平均」をとるのか、「中央値」をとるのか、目的によって参照すべき数値は変わるはずだ。給与や貯蓄の傾向を分析する際に、「平均」を見ると大金持ちのデータに引っ張られてしまい、普通の人の傾向が見えないことは皆さんもご存じであろう。
データがないと、判断しようがない

さて、『統計でウソをつく法』が書かれたのは1954年と半世紀以上前のことだ。「そんな古い話が、現代にも通じるのか?」と思われる方も多いだろう。そんなあなたには、キャロライン・クリアド=ペレス『存在しない女たち』(神崎朗子訳、河出書房新社)をお薦めしたい。
本書は西欧の事例だけでなく、途上国まで含めた多くの国で、いかにデータが女性を「無視」してきたかを分析している。問題の傾向は、1冊目で示したものとそう大きくは変わらない。本書の例を見てみよう。
①女性にまつわるデータが、そもそもない/少ない。例えば、スウェーデンにおいて、除雪作業は幹線道路が優先されて行われていた。幹線道路は主に通勤目的での車移動に利用されており、その多くは男性によって行われている。女性は歩道での移動が多いので、幹線道路を優先した除雪作業は、凍った歩道を移動する女性を無視していることになる。
スウェーデンの政治家たちも、まさかこんなところに男女差があるとは思わなかったそうだ。移動の統計を集計する段階で、多くの国が自動車以外の情報収集を怠ってしまっているのが原因の1つだったそうだ。そう、そもそも歩道の移動が見えていなかったのだ。