Z世代が支持! ネオ居酒屋は「エモい」がキーワード

プロントの夜の新業態「キッサカバ」銀座コリドー店。遠くから見てもインパクト大ののれんが目印

嗜好の多様化や、新型コロナウイルス流行による飲み会の減少といった理由により、若者の酒離れに拍車がかかっている。一方で、「Z世代」と呼ばれる1990年代後半から2000年代にかけて生まれた若者の間では「ネオ居酒屋」が話題だ。

明確に定義されているわけではないが、「ネオ居酒屋」や「ネオ酒場」と呼ばれる店の共通点としては、インパクトのある「絵になるメニューや内装」、キャッチーなイラストや格言・名言が書かれた「映えグラス」、ネオンサインやクリームソーダなどちょっと懐かしい「レトロテイスト」を取り入れている点などが挙げられる。

これらはいずれも写真映え・動画映えし、若者が好む“エモい”要素。デジタルネーティブであるZ世代にとって、スマートフォンで写真や動画を撮り、SNS(交流サイト)にアップする行為は日常生活の一部になっている。よりSNS映えするものを求めて、酒とさかなでワイワイ過ごすという従来の目的とは異なり、SNSでの拡散や体験の共有を主な来店目的としているのがネオ居酒屋の特徴だ。店側もそうした需要を踏まえて、思わずSNSで共有したくなるような店づくりに力を入れている。

お酒を飲む人も飲まない人も楽しめる「キッサカバ」のメニュー。「かなり固めのクラシックプリン」(右、429円)はファンの多い濃厚な味

プロントコーポレーション(東京・港)は、全国展開するカフェ&バー「プロント」にて、夜の新業態「キッサカバ(喫茶+酒場)」を21年4月からスタートした。同店はもともと昼夜通しの営業なのでコーヒーもアルコールも提供していたが、コロナ禍の影響で全体の売り上げが大幅にダウンしていたという。

「コロナ禍ではしご酒がしづらい中、外飲みをする人は『このメニューが食べたい』など行く理由が明確な店を選んでいます。プロントはコーヒーも、パスタも、ハイボールもと手広くやってきた結果、『プロントに行きたいから行く』という理由では選ばれていないと当時の状況を分析しました」(プロントコーポレーションブランド戦略部マネージャーの藤原学さん)。利用目的をはっきりさせて求心力を高めるために「昼はカフェ、夜はサカバ。」というリブランディングを打ち出したという。

さらに若者の間でも話題になるように、レトロテイストを取り入れた。「誰かに話したくなるような話題性のある要素をリサーチしていく中で、若い人に人気のレトロテイストに行きつきました」と、藤原さん。「キッサカバ」の営業が始まる午後5時ごろになると、店内にあるピンク色のネオンライトがともり、ポップな書体とイラストで表現した大きなのれん、小さな電飾看板が店先に出る。それだけで昼間の店とは異なる“エモい”雰囲気になり、若い世代の客からも「以前より店に入りやすくなった」という声が届いているという。

メニュー表はメニュー名とイラストのみ掲載。あえて写真や説明文を載せないことで、客がスタッフに尋ねるコミュニケーションの機会を生んでいるという

メニューの多くは、「キッサカバ」業態用に新たに開発。「タコさんウインナー(10匹)」(539円)、「極厚切りハムカツ」(429円)など、懐かしさを感じるメニューが人気だ。ドリンクはビールやハイボールなどの定番に加え、透明なのにコーヒーの香りがする「ザ・ニューサワー クリア珈琲」(528円)という、喫茶+酒場を象徴するような酒もある。クリームソーダやバナナミルクは、アルコールあり・なしを選ぶことができる。

夜の業態変更後、客層の変化がすぐに表れた。これまでは40~60代の男性がコア層だったが、夜は20~30代、特に女性の利用客が増えたという。また、カフェ営業中は1人客も多いが、「キッサカバ」では複数人での利用が多く、酒を飲む人も飲まない人も同じテーブルで過ごすという、「キッサカバ」ならではの光景が見られるようになった。

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少女マンガの世界観を表現する“かわいい”ネオ居酒屋