AIやVRを使い一人ひとりの介護にあった機能を

――車イスで生活している方のリハビリにパワースーツの活用なども取り上げていますね。「障害」という言葉を使わず「身体の多様性」という言葉を用いています。

「要介護者に画一的な製品、サービスを提供しても補助具などが無ければ、当事者の役に立ちません。足腰が弱い方も階段の上り下りに苦労するケースと、歩行自体が困難な場合ではサービスが違います。聴覚の補完も歩行中に車の音を察知したい場合と、コンサートを楽しみたい時では製品に求める性能が異なります。AIや仮想現実(VR)を駆使することで、大量生産品はプラットフォームのような立ち位置に近くなり、一人ひとりにあった機能を安価に提供できるようになるでしょう」

――そのための核となる技術環境は「デジタルネイチャー」にあると説いています。

「デジタル技術が発展して質量のある元来の自然と質量のないデジタルの自然が親和し発展する新たな自然環境を指します。例えばポストメタバース時代を経て物理空間に計算空間の演算結果が作用し、そのループが加速し質が変化することで生まれうるのがデジタルネイチャーともいえます」

自動運転車イスならば介護職の補助なしの移動が可能になり現場の負担軽減にもつながる

――介護のためのハイテク利用は、現時点でどこまで進んでいるのですか。

「筑波大のデジタルネイチャー研究室で試作・開発したのは後ろから押す必要のない自動運転車イスです。車イスに拡張現実(AR)カメラや360度撮影可能な全天球カメラを組み合わせて遠隔操縦できます。障害物を検知すれば自動停止し、改めて再開するので、高齢者は介護職の補助なしの移動が可能になります。介護の現場が、高齢者の移動に多くのエネルギーが費やされている課題の解決を目指しています」

「自動運転であれば介護職は高齢者と並びながら歩き、顔を合わせながら自然により近い形でコミュニケーションを取ることも可能です。首都圏の老人ホームで試作タイプのデモンストレーションを行い、施設職員の方々に操作してもらいました。昨年からは高齢者用住宅企業との共同事業で実用化を進めています」

「もうひとつ開発したデジタル技術に、視力に関係なくモノが見えるような『網膜投影型ディスプレー』があります。ヒトは水晶体が光を受けてカメラのレンズのような役割を果たし、ピントを合わせることでモノが見えるようになります。遠視や近視、老眼といった症状は、ピント調節機能の衰えなどが原因でした。網膜投影型ディスプレーは網膜に働きかけるため、比較的クリアに見えるようになります」

――デジタルネイチャー研究室の成果以外にも、ハイテク介護の技術は育っていますか。

「例えば研究室OBの方がやっているのですが、失語症の方を助けるスマートグラスなどの実用化が進んでいます。装着した後に読みたい文字の方を向いて付属のボタンを押すと書かれた文字が音声として読み上げます。文章の読み上げ機能については既にアプリや専用機器が製品化されています。しかし文字を撮影するなどの手間がかかり、室内以外では使用できないなどの課題が残っており、スマートグラスを使うことで解消できます」

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デジタル技術で「ぬくもりのある介護」も可能に