睡眠不足で経済損失15兆円「寝ずに頑張る」は時代遅れ 岡島 義の「眠りの森」探検(その1)

2021/10/4
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「睡眠(休養)は、栄養、運動と並ぶ健康の3要素」と語るのは、東京家政大学で睡眠行動科学研究室を主宰する岡島義氏。健康や未病のもととなる「質の高い睡眠」を実現するために、知っておきたい眠りのディープな世界を紹介していきます。

眠りの効用

「日中、とても眠くて仕事に支障が出て困っています。眠気を覚ます薬はないですか?」

私のところに来るクライアントさんがよく言うフレーズです。これまで睡眠や眠気についての研究は、数多く行われてきました。そして、現時点での結論は、「眠気を抑える特効薬は夜の十分な睡眠時間の確保」なのです。

「睡眠負債」という言葉を聞いたことはありませんか。これは、その人にとって必要な睡眠時間が確保されていない状態のことで、慢性化した睡眠不足のことを指します。睡眠不足といえば「寝不足」や「徹夜」を連想しやすいものの、「それでも頑張った」みたいなポジティブな印象もないわけではありません。一方、睡眠負債というと、「借金」のような響きで「なんだかいけないものを抱えているので返さなきゃ」というネガティブな印象を受けます。しかし、実は適度な睡眠負債は寝つきを早めるというメリットもあります。要は、返せる程度の借金ならOK。返せないほどの負債を抱えるのはNGなのです。

この睡眠負債を過度に抱えることで、強い眠気はもちろんのこと、認知、行動、感情、注意・記憶、体などにさまざまな影響が出てきます。

認知面 嫌な考えが浮かびやすくなったり、くよくよと後悔しやすくなったりする。

行動面 攻撃的になったり、衝動的で落ち着かなくなったりする。うっかりミスもしやすくなる。

感情面 憂うつや不安感、イライラ感が増して、やる気も低下する。

注意・記憶面 集中力、記憶力が低下する。

身体面 風邪を引きやすくなる(言い換えると、ウイルスに感染しやすくなる、図1)。インフルエンザの予防接種の効果が半減する。痛みを強く感じるようになる。太りやすくなる。脳の老廃物の1つであるアミロイドβが排出されにくくなる。

Prather AA et al: Sleep 38: 1353-1359, 2015

そして、こういった問題が対人関係を悪化させたり、学力や仕事のパフォーマンス、生産性を低下させたりします。さらには、うつ病、高血圧、疼痛(とうつう)、糖尿病、認知症のような病気にも関係してきます。

実は、日本人のほとんどは睡眠負債状態といえます。というのも日本人の睡眠時間の「短さ」は経済協力開発機構(OECD)加盟国の中で最下位なのです。ある研究(※1)では、4時間睡眠を続けると、9日ほどで徹夜したのと同じくらいのパフォーマンスしか発揮できなくなることが分かっています。なんと、6時間睡眠でも2週間ほどで徹夜と同じレベルに。一方で、眠気に関しては徹夜した人よりも感じにくくなります。つまり、自覚症状が乏しくなっている状態であるため、当事者は問題意識が希薄になってしまいます。