仕事に生かせる名せりふの数々

生まれ育った環境の格差を指す「親ガチャ」が流行語になったが、「ハリー・ポッター」シリーズではホグワーツ魔法学校のダンブルドア校長がこう言っている。「大切なことは、どう生まれたかより、どう育ったかじゃ」。校長はこうも言う。「我々が何者であるかを示すのは能力ではない。どんな選択をするかだ」。

複雑な生い立ちの主人公ハリー・ポッターは魔法使いになる道を選んだ後も悩み迷うことが多いが、校長は自らの意志と選択の大切さを説き、ハリーを導く。魔法使いとして優れた能力を持ちながら、欲望を抑えられず、悪の道に走った魔法使いたちを見てきた校長の箴言(しんげん)が重みを持つのは、必ずしも魔法界に限った話ではないだろう。

日本で人気が高いせりふに、「風と共に去りぬ」のヒロイン、スカーレット・オハラが言う「明日は明日の風が吹く(Tommorow is another day.)」がある。困難に立ち向かう際、スカーレットが自分を励ますかのように言う座右の銘のようなせりふだ。

物事を楽観的にとらえるのは、過剰なストレスから逃れるうえでメリットが多い。逃げ回ってばかりではまずいが、すべてのトラブルや困り事に真正面からぶつかっていたのでは、心の安定を保ちにくい。

適度に忘れたり切り替えたりしていくには、ケ・セラ・セラ(なるようになるさ)の精神も持ち合わせておきたい。こちらも映画「知りすぎていた男」の中で、ドリス・デイが歌った主題歌のタイトルとキーフレーズとして知られている。

チャールズ・チャップリンは「ライムライト」の中で「人生に必要なのは、勇気と、想像力と、そして、少しのお金」と言った。「お金は暮らしに困らない程度が手元にあれば十分だ」とも読めるが、「少しのお金がないのは、とてもつらい」とも読める。映画のせりふはストーリーの中で語られるから、自分なりに読み解く楽しみがある。

いろいろな言い換えパターンを考えると、ビジネスに役立てやすくなる。たとえば、「このプロジェクトに必要なのは、勇気と、想像力と、そして、~万円程度のお金」という形で新事業をプレゼンテーションするのも悪くないだろう。

洋画の場合、吹き替え版を選ぶと、せりふの抑揚をつかみやすい。何度かリピート再生すれば、自然とフレーズごと耳に残る。リモートワークのあおりで、しゃべる機会がなかなか戻ってこない人はせりふを声に出すと、発語機会を補う効果も期待できる。

英語のちょっとした学びにも役立つ。たとえば、先に挙げた和田氏の著書「お楽しみはこれからだ」のタイトルは、映画「ジャズ・シンガー」に主演したアル・ジョルソンが得意としたせりふ「待ってくれ、お楽しみはこれからだ!(Wait a minute, wait a minute. You ain't heard nothin' yet!)」から取られている。「まだあなた(観客・聴衆)は何も聞いていない」という文章をこなれた日本語に整えた名訳といえるだろう。最近は英語字幕を表示できるソフトが出ているから、日本語と照らし合わせると、理解が深まりそうだ。

「オズの魔法使い」で主人公の少女ドロシーが言う「やっぱりお家が一番(There's no place like home!)」のように、象徴的な決めぜりふはメッセージをわかりやすく伝えるのに便利だ。仕事上の提案や企画をこういった印象的なフレーズで表現できるかどうかは試してみてもよさそうだ。ヨーダなら「やるか、やらないかだ。試しなどない」と言うだろうか。

梶原しげる
1950年生まれ。早稲田大学卒業後、文化放送のアナウンサーに。92年からフリー。司会業を中心に活躍中。東京成徳大学客員教授(心理学修士)。「日本語検定」審議委員。著書に「すべらない敬語」「まずは『ドジな話』をしなさい」など。