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「データサイエンティスト」という職業をご存じだろうか。世の中にあふれている数々のデータを駆使し、それを分析して意義を見いだし、ビジネスの価値向上につなげる役割を果たす職業をいう。近年は大学など教育機関でも「データサイエンス」を冠した学部が相次いで誕生し、新しい学問領域としても注目を集めつつある。

本書『データサイエンティスト入門』(野村総合研究所データサイエンスラボ 編)は、いま最も注目を集めている職業の一つ、データサイエンティストに迫った解説本だ。そもそもどういう職業なのか、ビジネス界でどういう役割を果たしているのか、今後どういう活躍が期待されているのか。まだ一般には聞き慣れないこの職業にスポットを当てている。データを重視し、分析・整理を行うことでビジネスの真相に迫る取り組みはこれまでもあっただろうが、いまなぜ注目を集めるのか、データを操る専門集団としてなぜ必要とされているのか、本書を読むとその理解が深まることは間違いない。「若手リーダー」にとってぜひ押さえておきたい一冊だ。

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民間シンクタンクの野村総合研究所は2021年4月に「データサイエンスラボ」を発足し、データサイエンスビジネスに本格的にかじを切り始めました。このラボに所属する研究者らを中心にまとめたのが本書です。執筆者でラボ長の塩崎潤一氏は、1990年に筑波大学第三学群社会工学類を卒業し、野村総合研究所に入社。マーケティング戦略の立案や、ブランド・マネジメント、広告宣伝の効果測定などを専門とし、積極的に情報発信を続けています。一方、ラボ上級研究員の広瀬安彦氏は97年に慶応義塾大学文学部人間関係学科を卒業し、大日本印刷グループのDNPデジタルコムに入社。インターネットモールの企画営業での勤務経験を経て、2001年に野村総合研究所に入社。データサイエンティストの育成や組織開発に従事してきました。

あふれかえるデータを駆使してビジネスの価値向上につなげるのが、データサイエンティストの仕事だ

あふれかえるデータを駆使してビジネスの価値向上につなげるのが、データサイエンティストの仕事だ

消費者が「見える化」するデータサイエンス社会

データサイエンティストという職業はどのような存在なのでしょうか。本書では「データを使ってビジネスを変革できる人」と定義しています。データを分析するだけでは足らず、ビジネスに応用して新しい付加価値を生むことができて初めてその存在感を発揮できると説明しています。膨大なデータを集めることができるビッグデータ時代だからこそ、データから何を読み解くか、データをさばく専門集団が必要というわけです。昨今、注目を集めるようになりましたが、これまでデータサイエンスに関する書籍は少なくなかったものの、データサイエンティストという職業を取り扱った書籍があまり見られなかったことが執筆のきっかけになったといいます。

本書は全5章から構成されています。第1章「いまなぜデータサイエンティストなのか」ではデータサイエンティストを巡る現状を整理し、第2章「データサイエンティストに求められる3つの能力」、続く第3章「データサイエンティストの仕事」では、必要な能力、どのような仕事の内容かがわかる記述になっています。その職業のイメージをさらにわかりやすく紹介するため、第4章「データサイエンティストのリアル」では、野村総研で働くデータサイエンティストの経験をもとに、6編からなる物語風のショートストーリーを紹介し、現場でどのような活躍が期待されているかを具体的に示しています。最後に第5章「データサイエンティストが拓く未来」では、現在の課題を提示しながら将来の展望について重点が置かれています。

本書は新書サイズに相当し、全体の分量も200ページ強で、初学者でも気軽に手に取って読み進めていけるように工夫が凝らされています。「データサイエンティスト」という職業のイメージをつかむのに最適な入門書といえましょう。

データサイエンティストが注目を集めるようになったのはまだ10年程前のこと。歴史はまだ新しいのですが、その背景には、センサーや人工知能(AI)などを駆使して日常の様々な事象をデータとして吸い上げ、活用するビッグデータ時代の到来があります。本書では、12年のハーバードビジネスレビュー誌の中から「データサイエンティストは21世紀で最も魅力的な(セクシーな)職業である」との一文を紹介しています。もっとも歴史は浅いため、確固たる職業の定義があるわけではなく、人材の育成をめぐっても、専門的な教育体系があるわけでもありません。本書では、なるべく具体的なイメージを読者に伝えながら、データサイエンティストの現状と課題を提示しようとする努力がうかがえます。

データサイエンスが注目される業種では、例えば本書でも流通やマーケティング分野などが例に挙げられていますが、メディア業界もその変革の波にさらされています。新聞もこれまでのような紙媒体では、誰が、いつ、どのような記事に関心を寄せて、どの程度読んだのか、まで詳細に把握することは不可能でした。発行部数や、時折実施される「読者アンケート」などで、聞き取るよりほかに手段がありませんでした。

それが紙媒体からデジタルに移行するなかで、インターネットを介して読者の動向が手に取るようにわかるようになったのが、最大の変革です。デジタルの新聞では読者のアクセスにより、どの時間帯に、どんな読者が、どの記事にどれだけの時間、閲覧したのか、その傾向が瞬時にわかり、データとして蓄積されます。読者の関心が定量的に把握でき、紙面編集だけでなく、広告・イベント等のビジネスにも影響を与えるようになってきています。テレビ業界でおなじみの「視聴率」が、伝統的な紙媒体である新聞業界にも迫り、改革を促しているのが昨今の情勢です。あふれかえるデータを駆使して情報発信する報道の側面だけでなく、ビジネスにも影響を与えているところに、テクノロジーのもたらすビッグウエーブがあります。

データサイエンス業務は、分析結果やモデルを出し、評価を受けることで一区切りとなりますが、実際に分析結果やモデルがビジネスの現場で活用されなければ意味がありません。
データサイエンス業務に対する評価は、データ分析の結果によって、どれだけビジネスに貢献できたか、ということに尽きます。
もちろん優れた分析モデルを構築したり、予定通りにプロジェクトを完遂したりすることは評価されるべきことです。
しかし、これからのデータサイエンティストのあるべき姿を考えると、それだけでは不十分です。
分析結果やモデルが実際に活用され、そのことでビジネスに貢献したことが評価されてこそ、データサイエンティストという存在が評価され、世の中に認められていくのです。
(第3章 データサイエンティストの仕事 94ページ)

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