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潜在的iPadユーザーのニーズに応える

第10世代iPadの課題を1つ挙げるとすれば、Apple Pencilの使い勝手だ。本機は第1世代のApple Pencilに対応している。第2世代のApple Pencilよりも少し長くて重いデジタルペンシルだ。書き味やホールド感についてはユーザーの好みがあるので今回は触れないが、問題はApple Pencilの充電とペアリングにある。どちらもLightningコネクターが必要なのに、第10世代のiPadがUSB-Cコネクターを採用したため、他のiPadよりも手間がかかる。具体的には、第10世代のiPadでApple Pencilの充電やペアリングを行う場合、iPadとApple Pencilとの間に別途、専用の「USB-C - Apple Pencilアダプタ」(1380円)をつなげた上で、USB-Cケーブルに接続しなくてはならないのだ。

極力余分なものをそぎ落とし、とことんスマートさを追求するアップルらしくない対応だけに、iPadのUSB-Cコネクターに直接挿せるApple Pencilを開発していることを願っている。Apple Pencilを存分に活用し、イラストを描いたり、手書きのクリエイティブワークに使ったりしている多くのiPadユーザーの期待に、ぜひ応えてもらいたい。

第1世代のApple Pencilに対応する
iPadに直接挿してペアリングや充電ができないため、専用のUSB-C - Apple Pencilアダプタ(写真の赤丸)を介してUSB-Cケーブルを接続する必要がある

第10世代iPadの価格はWi-Fiモデルが6万8800円から、Wi-Fi+Cellularモデルが9万2800円からとなっている。先述のMagic Keyboard Folioを付け足すと10万円を超える出費になる。だが、新しいiPadが5G対応で機動力に富み、Apple Pencil(1万4880円)を使った手書き入力にも対応することを考えると、価格が拮抗するMacBook Air(13万4800円から)との比較検討にふさわしいモデルが誕生したと受け止められる。

学校のICT教育を支え、商業施設で情報掲示やPOSレジ端末としても活躍するiPadに対して、「安価であること」を期待するユーザーも多い。第9世代のiPadが販売を継続する理由は、手ごろなエントリー価格のiPadを求めるユーザーの声に応えたからだろう。

Apple M1チップを搭載し、Apple Pencilによる筆記応答性能に優れるディスプレーを備えた上位モデルのiPad Airもラインアップに残った。現在、iPadシリーズには個性ある選択肢が多数そろっている。アップルはすべての「潜在的なiPadユーザー」のニーズに幅広く応えるべく、ラインアップの隙間を埋める役割を第10世代iPadに与えたのかもしれない。2023年以降には、iPadのバリエーションがさらに拡大する可能性もあるだろう。

(文・写真 ジャーナリスト兼ライター 山本 敦)

[日経クロストレンド 2022年11月18日の記事を再構成]

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