学問への自信で精神安定

――東京外大の学長時には、大学発足以来続いた外国語学部を言語文化学部と国際社会学部に改編しました。

「グローバリズムの進行とともに英語一元主義的な流れが加速する中で、多言語多文化をミッションに掲げる東京外大の存在が埋没するのではないかとの危機感が強まりました。一見するとグローバリズムで恩恵を受けそうな多言語を掲げながら、多くの受験生が英語に流れてしまう状況です。言語で細分化された入試や授業では、社会的意識の高い受験生の志向をとらえきれなくなったのです。受験生を獲得するには、外国語学部のカテゴリーにとらわれず、政治や経済などへの学生の関心に応えるカリキュラムを構築する必要がありました」

――改編には反対意見も多かったのではないですか。

「反対意見も説得力がありました。(世界の)地域文化研究の拠点としてのアイデンティティーを保ち地域や言語のプロを育てることこそが、東京外大の生きる道との考え方です。しかし私は、それでは若い学生に狭い学びしか与えられず、必ずしも幸せな学びのスタイルとはいえないと考えました。国際社会の動きに関心を持つ学生は、外国語学や地域文化研究だけではひき付けられないことを入試データをもとに説得しました」

――学長職の傍ら、文学者として研究や翻訳・執筆の仕事を多くされています。

海外のドストエフスキー研究者との親交も深い(2019年、ボストンで)

「大学の教職員から学問的な側面で一定のリスペクトや、それに伴う自信が得られなければ自身のアイデンティティーが喪失し、迷走しかねません。学問が精神を安定させることにもつながります。両立は決して困難ではありません。私は過去20年近く、分割睡眠の方式を取っています。夜7時に帰宅し、食事をするとまもなく眠り、夜10時ごろに起き出して午前3時まで仕事をします。朝は8時半に起きます。帰宅後にいちど寝ることで文学の頭にぱっと切り替わるのです」

次のページ
ライバル意識束ねる