高血圧の放置がリスク 心臓弁膜症、自覚しにくく
体中に血液を循環させる心臓。4つの部屋の出入り口に弁があり、血液が逆流せず一方に流れるようにしている。この弁に不具合が起こるのが心臓弁膜症だ。症状がなくても油断は禁物。注意点をまとめた。
心臓弁膜症には大きく2つのタイプがある。弁がしっかり閉まらず、血液が逆流するのが閉鎖不全症。それから弁が正常に開かず、出入り口が狭くなって血液が流れにくい狭窄(きょうさく)症がある。特に血液を全身に送り出す心臓の左側(左心系)に位置する僧帽弁と大動脈弁に起こる例が多い。
加齢で動脈硬化が進むと、弁が硬くなるなどするため、高齢者に目立つ。ただ虎の門病院(東京・港)の山口徹雄・循環器センター内科医長は「僧帽弁を支える腱索(けんさく)と呼ばれる組織が何らかの原因で切れ、弁の異常が起こることがある。若い人でもありうる」と説明する。
厄介なのは初期には症状が出にくい場合があることだ。心臓のポンプとしての機能に大きく影響するようになれば疲れやすさや息苦しさ、動悸(どうき)など、さらに重くなると、胸痛や失神を起こすことがある。とはいえ軽症から中等症の段階では自覚できる症状がほとんどない人が目立つ。山口医長は「健康診断の聴診で『心雑音がある』と指摘され、検査してみて見つかることも多い」と話す。
心臓超音波検査(心エコー)などで弁に血液の逆流や通過障害など明らかな異常が認められれば弁膜症と診断される。しかし即手術となるわけではない。自覚症状がなく、弁の異常の程度が低いと、積極的な治療はせずに「経過観察」となる例が少なくない。
心臓の負担や症状を和らげるために薬が出される場合はあるが、弁膜症そのものを治すためのものではない。根本的な治療としては正常に働かなくなった弁を修復したり(弁形成)、取り換えたり(弁置換)する必要がある。
方法は胸を切り開く外科手術が一般的。最近は太ももの付け根の静脈から医療用の細い管を心臓まで届かせるカテーテル治療もある。東京心臓血管・内科クリニック(東京・中央)の柴山謙太郎院長は「年齢や体の状態により最適な治療法は異なる。医師の説明を十分聞き、どの方法を選ぶか納得してから受けるようにしてほしい」と話す。
経過観察となったときは治療を受けるタイミングを逃さないのが重要だという。血液を円滑に送り出せなくなると、不整脈が起きたり、血栓ができたりしかねない。心臓に負担がかかり、心不全の原因にもなりうる。変化を見逃さないためにも、定期的に医療機関を受診したい。その間隔や頻度は弁膜症の程度によるので、医師の指示に従い、症状がなくても続ける。
経過観察中の生活は基本的に普段と同じでよいが、息苦しさなど異常がみられたら、すぐに医療機関を受診する。生活習慣病の治療にも気を配りたい。とりわけ心臓に負担がかかる高血圧は放置せず、しっかり対処したい。
山口医長は「心臓弁膜症があって歯科治療を受けるときには特に注意してほしい」と付け加える。「感染性心内膜炎」のリスクが高まるのだという。歯科治療の際、口の中の細菌が血管内に入り、心臓にまで届いて起こる。まれなケースだが、感染によって心臓の弁が壊され、症状が悪化して死に至った例もある。
歯科治療は抜歯や虫歯の治療にとどまらず、歯石除去でもリスクがあるとされる。山口医長は「歯科治療の前に抗菌薬を服用すればリスクを軽減できる。治療する予定がある人は心臓の主治医にあらかじめ相談してほしい」と訴える。日ごろから口の中を清潔に保つよう心掛けるのも大事になってくるだろう。
(ライター 坂井 恵)
[NIKKEI プラス1 2021年12月11日付]
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