障害者の視点から

田上と浅野がともに競馬に疑問を呈しているのは興味深い。田上によると一部のスター馬を除き、多くの競走馬は引退後に殺処分され、家畜のエサや肥料にされるという。このような馬の生存権の侵害のうえに成り立っている競馬は、動物倫理学的に見て大問題だと彼らは主張する。

さらに、ごく最近の潮流として、動物と障害者という視点からの思索がある。スナウラ・テイラー『荷を引く獣たち』(今津有梨訳、洛北出版、20年)はこの観点で書かれた驚くべき本だ。テイラーは身体障害者であり、動物解放論者でもある。20世紀に動物解放論を打ち立てたのはピーター・シンガーである。シンガーは動物を苦しみから解放しなくてはならないと宣言したと同時に、人間の障害者については、障害があるよりもないほうがいいと考えた。テイラーはシンガーの考え方に反旗を翻し、障害を持つことは悪ではなく、この世に価値をもたらすのだと断言する。

彼女はカフェでバッグに顔を突っ込んで、口でコンピューターに噛みついて引っ張り出す。そのときに彼女が想(おも)うのは、鼻で地面を掘り起こして食べ物を探すブタである。彼女はそれを恥と考えるどころか、逆に、自分が動物である証拠だとして肯定する。

動物倫理学は、人間に「動物の立場に立って考えてみよ」と促す。テイラーは違う。我々は人間であると同時にれっきとした動物なのであり、我々がすでにそれであるところの動物の視点から、動物解放と障害者解放を同時に遂行しなければならないとするのである。まことに鮮烈な問いかけだと言えるだろう。

[日本経済新聞朝刊 2021年10月9日付]

ベジタリアン哲学者の動物倫理入門

著者 : 浅野 幸治
出版 : ナカニシヤ出版
価格 : 2,530 円(税込み)

荷を引く獣たち: 動物の解放と障害者の解放

著者 : Taylor,Sunaura
出版 : 洛北出版
価格 : 3,080 円(税込み)