鉄スクラップ13年ぶりの高値 背景に「脱炭素化」号令
鉄鋼の原料である鉄スクラップが値上がりしています。最も流通量が多い品種「H2」の電炉会社の買値(関東地区)は、今年の春以降上昇し10月時点で1トン5万4000円。昨年の最も安い時期から見ると3倍近い値上がりで、13年ぶりの高値圏になっています。背景にあるのが世界的な「脱炭素」の流れです。
鉄は「リサイクルの優等生」
鉄鋼を作るには2つ方法があります。鉄鉱石や石炭を原料にする高炉と、鉄スクラップからつくる電炉です。ざっくりいうと新しい原料を使って作るのが高炉、リサイクルした原料を使うのが電炉です。紙で例えるとパルプから作る紙と、古新聞や古雑誌から作る古紙の関係に似ています。
鉄は何度も繰り返し新しい鉄製品として再利用できるため、リサイクルの優等生と言われています。その大事な原料となるのが鉄スクラップです。建築物の解体工事から出る鉄筋、自動車や電気製品の工場で出る端材などが鉄スクラップとして取引されています。
なぜ今年に入り上がっているんでしょうか。中国の買い付けが増えているためです。中国が今年1月に鉄スクラップの輸入を再開した影響で、世界の鉄スクラップ需給がひっ迫しているのです。日本からの中国への輸出量も急増しています。
電炉はCO2削減の切り札
中国が買い付けを増やしている背景にあるのが「脱炭素化」の流れです。昨年春、習近平(シー・ジンピン)国家主席が脱炭素の姿勢を示しました。中国の素材産業にも二酸化炭素(CO2)削減の大号令がかかっています。鉄鋼業界でCO2削減の切り札として注目されているのが、高炉に比べ排出量が少ない電炉なのです。
高炉は製造工程で石炭や鉄鉱石を使い、大量の二酸化炭素を排出します。これに対し、電炉から発生するCO2は少ないのです。もちろん電炉を動かすには電力が必要になりますが、発電量の7割を火力発電に頼っている日本ではCO2の排出量を高炉に比べ4分の1に抑えられるといいます。そこに中国が目をつけたというわけです。
中国は2025年までに、粗鋼生産に占める電炉の比率を現状の10%程度から20%まで高める目標を掲げています。そうなると中国国内から発生する鉄スクラップだけでは原料が足りず、世界から買い集めています。
日本でも電炉シフトの動きは起きています。日本製鉄は30年までに年産能力200万トン級の大型電炉をつくる予定で、投資額は1000億円を上回る見通しです。JFEスチールも、今年から年20万トン規模の鉄スクラップの定期購入を決めました。スクラップの活用で、24年度のCO2排出量を13年度に比べ18%削減する目標を打ち出しています。欧米でも同じような動きがあります。
世界の鉄鋼業界が取り組んでいる「脱炭素化」が、鉄スクラップの高騰につながっているのです。きょうの方程式は「鉄スクラップの高騰=脱炭素化の加速による需要急増」です。
発生量限られ高値続く見通し
今後も鉄スクラップの高値は続くのでしょうか。建物の解体工事で発生する鉄スクラップの量は、コロナ禍の影響で解体工事が停滞していて少なくなっています。自動車も生産が停滞しており、工場から出る端材が減っています。そのため、当分は高値圏で推移しそうです。
鉄スクラップだけでなく鉄鉱石の値段も上がっていて、鉄鋼価格の上昇が見込まれています。ビルやマンションに使う建設用鋼材が値上がりし、それがビルやマンションの建設費、さらに販売価格まで跳ね返ってきそうです。身近な所では文具にも影響が出ています。文具大手のコクヨは、はさみやカッターなど鋼材を使う20品目の文具を22年1月の出荷分から平均8%値上げすると発表しています。
(BSテレ東「日経モーニングプラスFT」コメンテーター 村野孝直)
BSテレ東の朝の情報番組「日経モーニングプラスFT」(月曜から金曜の午前7時5分から)内の特集「値段の方程式」のコーナーで取り上げたテーマに加筆しました。
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