車のサブスク、若いほど買うよりお得 走行距離に注意
定額の支払いで製品やサービスが利用できるサブスクリプション(サブスク)サービスが身近になってきました。家電や美容・ファッションなど多くの分野で使えるようになっています。最近では自動車のサブスクもテレビCMで目にする機会が増えています。購入と比べ、どちらがお得なのか調べてみました。
仕組み、実はカーリースと同じ
料金を月々払って好きな車を使えるサービスに「カーリース」があります。サブスクとの違いは何でしょうか。実はほぼ同じです。カーリースは法人が広く利用しており、個人向けも昔から存在しています。法人の場合は税負担が軽くなるなどメリットがあります。個人も初期費用を抑えられるメリットはありますが、法人に比べるとあまり訴求できていません。
若者の車離れに悩む自動車メーカーが、若者の自動車需要を取り戻すためメリットをわかりやすく商品設計を見直しました。さらにトレンドワードに乗っかったのが自動車メーカーの「サブスク」です。トヨタ自動車が2019年に始めた「KINTO」(キント)が先駆け的な存在です。
一般的にカーリースは任意保険料を別に支払う必要がありました。KINTOを例にとると月々の支払額には任意保険も含まれています。リースは契約期間中、他の車種に乗り換えることができませんが、サブスクのサービスでは契約途中でも気軽に別の車に乗り換え可能です。
契約期間3年から
KINTOの契約期間は最低3年から、車種によって異なりますがコンパクトカーで月々3万7180円から利用できます。日産自動車やホンダも同様のサービスを始めています。昨年から利用者も増えています。KINTOの申込者数をみると、2019年3月から今年6月までの累計申込件数は2万件。20年12月時点に比べ63%増えています。自動車サブスクの市場規模は今後さらに広がるとみられています。日本能率協会総合研究所によると25年度の自動車サブスク市場は19年度の25倍になると予測しています。
増えている背景には3つの要因があります。まずは公共交通機関を避ける動きです。新型コロナでプライベート空間で移動できる車の価値が見直されています。KINTOの調査では8割の人が日常的に使用したい移動手段として自家用車を挙げました。車を持っていない人の23%がコロナをきっかけに今後自家用車を保有したいと考えています。
2つめは申し込みが手軽だということ。車を購入する場合は、販売店に行って値引き交渉するといったイメージもあり、面倒な面がありました。自動車各社のサブスクはネットで申し込むことができ手軽になりました。3つめが割安感です。車を購入するには頭金のほか任意保険や自動車税などでまとまった資金が必要になります。サブスクは頭金が必要なく保険などは全て込みです。
若者なら割安に
KINTOを申し込んだ人を年齢別で見ると20~30代が全体の4割を占めています。若者の需要を掘り起こすという戦略はうまくあたったようです。では実際、サブスクと購入はどちらがお得なのでしょうか。車種にもよりますが、得になるかを左右する大きな要因は利用者の年齢です。トヨタのコンパクトカー「パッソ」を例に3年契約でシミュレーションしてみます。サブスクの場合は年齢にかかわらず月々3万7510円。一方、現金で一括購入の場合は50歳から64歳までの人だと月額換算で3万5672円。サブスクのほうが1900円高くなります。21~25歳の場合は購入すると4万1419円。サブスクの方が約4000円安くなります。
この差は任意保険料によるものです。任意保険は若い人ほど保険料が高いのですが、KINTOではその保険料が年齢や等級関係なく一定のため割安になります。自動車のサブスクの値段の方程式はこうなります。
保険料という点では若い人にメリットが大きいです。年配の人は無事故を続けていれば保険料が安くなるのでサブスクのメリットは享受できませんが、過去に事故が多く、保険料が上がった人はサブスクの方が安くなるケースがあります。また車を購入しても数年後には手放さないといけないと分かっている場合も契約期間が決まっているサブスクは利用しやすいです。
サブスクにはデメリットもあります。自動車の返却後に中古車としての価値を保つため、走行距離に制限があるのです。KINTOだと3年間で5万4000キロメートルの制限があり、超えた場合は追加料金が発生します。
まとめると、サブスクに向いているのは(1)初期費用を抑えたい人(2)年齢が若い人(3)一時的に車が必要な人。購入のほうがいい人は(1)同じ車に長く乗りたい人(2)車を利用する機会が多い人(3)26歳以上の人です。
ただし、あくまで一例です。利用をしない方がよいというわけではないのでご参考までに。実際に利用を考えているひとはメーカーに確認をしてみてください。
(BSテレ東日経モーニングプラスFTコメンテーター 村野孝直)
BSテレ東の朝の情報番組「日経モーニングプラスFT」(月曜から金曜の午前7時5分から)内の特集「値段の方程式」のコーナーで取り上げたテーマに加筆しました。
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