周りを見ずに突っ走り、大失敗
「2005年の2月にアルバイトとして入って、1年半くらいたってから社員に登用されました。その時点で『飲食の仕事がしたい』と、明確になっていたので迷いがありませんでした。飲食業をなりわいにするために経営や運営を一通り学びたい、そのためにまずは早く店長になりたいという気持ちが強かったです。店長になるためには何ができるようになればいいのか、店長になれたらどのようにお店を良くしていけばいいのかということばかり考えていました。とにかく夢中で目の前の仕事に取り組んだ結果、社員登用後3カ月で店長になれたんです」
しかし、念願の店長になったことで気持ちが先走ってしまった。仕事での最初の挫折はこのタイミングだったと振り返る。
「一緒に働くアルバイトのみんなを置いてきぼりにしてしまったんです。一般的に、店長に就いたら最初の1カ月でお店のルールを把握して、みんなともコミュニケーションを取りつつ関係を築く。その上で2カ月目くらいから徐々に変化をつける、というのが理想的な流れなんです。それなのに、着任して早々、気になったルールやオペレーションを全部変えてしまいました。
その店舗の動き方にはそれぞれちゃんと理由があったのに、自分が疑問に思うものは、誰にも相談をせず、どんどん変えてしまって。最初は大丈夫だったのですが、同じようなことが何回か続いていく中で、アルバイトの2人からみんなを代表して『ルールやオペレーションについて、改善のペースが早過ぎる、ついていけない』と言われました」

未熟だからこそ失敗を受け入れられた
この経験が自分を見直すきっかけになった。
「自分では共有しながら進めているつもりだったけれど、みんながそう感じないならできていなかったということ。みんなを困らせたかったわけではないし、より良くするためと思ってのことで結果的に困らせてしまっていたので、私は真っ先に『ごめんなさい』と謝りました。私に意見するのも勇気が必要だっただろうから、言ってくれたことに感謝しました。私の考えを一つひとつ説明すると理解してくれたので、そこから仕切り直しです。
でも、しょっぱなで失敗してよかったと思います。新任の店長でまだまだ未熟という自覚があったからこそ、素直に失敗を受け入れられたのかもしれません」
失敗を糧に試行錯誤を重ねつつ、自らのアルバイト経験も生かしてその後は順調にリーダーとしての力をつけていった。
「例えば何かを『良い』と思ったとき、自分の中ではそれが正解になりますが、本当に正解かどうかは客観的には分かりません。だから立場は関係なく、周りの人の意見を大事にするようになりました。自分がアルバイトだったときを思い返すと、相談に乗ってくれるのはもちろんですが、私たちにも相談してくれる店長を信頼していたなと思ったんです。決まったことをただ共有するだけじゃなくて相談してくれると、一緒に店をつくっている、自分もお店づくりに参画している感じがアルバイトの頃にあったので、そういう気持ちも改めて思い出しました」
念願の店長に就任し、責任を持ってお店をつくりあげるよろこびと充実感でいっぱいの毎日を送っていた江澤さん。ところが、3年後、全く希望していなかった部署への異動が決まると、モチベーションが低下してしまった。

「スープストック副社長江澤身和 部署異動で悩んだ過去」へ続く
(取材・文 高橋奈巳=日経xwoman doors、写真 洞澤佐智子)
[日経xwoman 2022年1月27日付の掲載記事を基に再構成]