「単色」が客を呼ぶ ブランド力より感性に響く
4月は青、5月は緑、6月は赤…
「赤い靴を見にきた。ブランドではなく色でアイテムを探すのが楽しい」。6月1日、昨日まで緑一色だった店内が赤色に染まった東京都渋谷区のアパレルショップ「IROYA」。Tシャツやパーカー、靴やバッグなど約60点全てが赤色だ。
江東区から妻子と訪れた男性(30)は赤い靴を物色中。赤いラインのプーマのスニーカーの横にチェック柄のナイキのスニーカー、その隣には赤色の革靴が並ぶ。「普段は関心のないブランドや古着でも、ここでは気に入って買ったことがある」という。
IROYAは今年3月のオープン以来、3月は白、4月は青、5月は緑と商品の色を統一。取り扱う商品はエルメスやセリーヌなどの高級ブランドから無名アーティストや古着まで約200ブランドある。在庫は抱えずに全て委託販売の形で数千アイテムを扱う。全てのアイテムをウェブ上で紹介し、クリック数の高い上位50アイテムを店頭に並べる仕組みだ。
大野敬太社長(29)は「例えば赤色と言っても、明るい赤や暗めの赤、薄い赤や濃い赤。赤と白、赤と青など、濃淡や組みあわせも様々。赤が好きだという人が全員同じ赤が好きだとは限らない。微妙な色の違いを楽しんでもらいたい」と話す。客層は20~30代が中心で、店頭は男性客が7割。ウェブ購入の大半は女性客だという。
散歩途中についつい店に立ち寄ってしまうという渋谷区在住の田崎一さん(29)は「3月に白い靴とTシャツを購入した。色で統一したお店は他に知らないので新鮮」と満足げだ。
IROYAは色の濃淡を細分化した「色データ」を蓄積している。来店客のコーディネートを撮影して、一人ずつ色の分量を解析。現在、抽出した色データを元に個人の好みの色をプリントしたTシャツの販売を計画中だ。「6月を赤色にしたのは、3~5月中に白と赤、青と赤、といった具合にテーマカラーと赤を組み合わせた商品の反響が大きかったから。流行に関係なく消費者が求める色を今後も取り扱っていきたい」(大野社長)
洋服も店内装飾もピンクで統一
今年3月、渋谷109にオープンした「KOKOkim」。手掛けるのは"世界で一番ピンクなクリエイター"をキャッチコピーに活動する原宿系ファッションリーダーの木村優さんだ。自身がデザインしたピンクやラベンダー色の洋服にあわせて店内装飾もピンク色に統一。淡いグリーンや淡いブルーなど、ピンクの洋服とコーディネートしやすいアイテムも取りそろえた。
「淡いピンクの店内がカワイイと思って立ち寄った」と中井麻祐子さん(13)。イタリアから旅行で訪れたルイーザ・ファジアーニさん(35)は「淡いピンクの店内や洋服がまさに東京らしい"カワイイファッション"だと感じた」と話す。一目で引き付けられるピンクの印象が客を呼ぶ。
抹茶ジェラート、7色の緑のグラデーションで
飲食店でも色を前面に打ち出す店がある。静岡県藤枝市のジェラートが人気の菓子店「ななや」には週末、若いカップルや家族連れが列を作る。
お目当ては7色の抹茶ジェラート。ショーケース内には味の濃さに比例した7色の緑のグラデーションが広がる。5月中旬の週末、静岡県富士市から家族4人で訪れた渡部昇さん(42)はそれぞれ濃さの違うジェラートを注文した。「話題の店なので、車で1時間半かけてやってきた。色と味の違いを比べられて面白い」と楽しんでいた。
カラーマーケティングが専門の宮内博実静岡文化芸術大学名誉教授は「近年消費者の色への関心が高まっている。好きな色を1年中着ていたい人や、季節感を色で表したい人など様々。色を統一するとブランドの枠を超えてコーディネートしやすい利点もある。単色統一の店には年齢性別を問わず集客できる可能性がある」と分析する。
流行やブランドといった情報よりも、「自分好みの色」という、より感性に基づいた選択眼が広がっているのかもしれない。(野場華世)
[日経MJ2014年6月8日掲載]
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