安眠とどけるチェコの妖精 アニメ「アマールカ」
グッズも続々、大人の女性夢中に
ぬいぐるみ、弁当箱、キーホルダーにトートバッグ……。キデイランド原宿店(東京・渋谷)の一角にはアマールカグッズが並ぶ。絵本を持っているという落合仁美さん(27)は「アマールカがかわいくて心がほっこりする。色使いも優しい感じで癒やされる」と話し、スマートフォン用の巾着袋を買っていった。
同店ではコーナーの設置以来、「新規キャラクターとしては、従来にない立ち上がりの勢い」(加藤裕士店長)だった。今年初めに一押しスポットで紹介されると、一気に認知度が上昇。取扱店が急増し、80種類程度だったグッズ数は3倍近くに達した。ファンの一人、海野友里子さん(45)は「青い花冠、金髪、白い服のファッショナブルさに引かれた」と話す。
1973年放映開始のアマールカは、チェコでは国民的アニメとして親しまれてきた。日本ではほぼ無名だったが、古くからチェコ関連事業を手掛けるCM制作会社、アットアームズ(大阪市)がほれ込み、日本での版権を取得して昨年末からグッズ販売を本格化したのが始まりだ。
DVDはレコード会社のLD&K(東京・渋谷)から発売されており、全13話(91分)が入ったDVDボックスは1万269円。1話ごとの絵本(税抜き1300円)もある。
グッズの一つに、パルの人気ファッションブランド「カスタネ」と組んだパジャマがある。世界睡眠デーがあった3月には、購入者限定のパジャマパーティーが渋谷で開かれ、50人が集まる盛り上がり。「心が落ち着くのか、優しい気持ちのまま眠りにつける」と魅力を語るのは、日本語版DVDのナレーションも担当するシンガーの南波志帆さん(20)。
事あるごとに睡眠と結びつけられるのは訳がある。チェコでは子供が一日の終わりに、おやすみアニメと呼ばれるテレビ番組を見た後、就寝の準備をする習慣がある。寝る前に子供が見る前提だから、暴力などの過激なシーンはない。困っている森の仲間をアマールカが知恵を絞って助けようと試みる話が多い。
アットアームズチェコアニメ事業部の真部学チーフプロデューサーは人気の一端をアマールカの「女子力の強さ」と分析する。自尊心が強く、時に厳しい物言いをすることもあり「かわいくて優しいだけではない」点が支持されているとみる。
来年1月下旬にはおまけ付きのムックが発売される。「ファッションへの感度が高い人に人気があったが、一般にも広がると見込んでいる」と発売元の宝島社。スタンプラリーや上映会は8~9月に開催された渋谷に続き、来年3月には吉祥寺でも計画されている。
チェコでは冷戦時代、共産主義下で表現の自由が厳しく規制されたが、アニメだけは子供向けとの理由で多様な表現が許された。このため様々な分野から人材が結集してレベルが向上。背景の森林や野原も上質な絵画のように美しい。国内のアニメとは違った魅力を背景に、人気は当面眠りそうにない。
(中川淳一)
〔日経MJ2013年12月18日付〕
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