失敗恐れるな キャリア構築の鍵、富永由加里氏に聞く
Wの未来 やればできる
――なぜ日立ソリューションズ(当時は日立コンピュータコンサルタント)を就職先に選んだのですか。
「大学では工学部の経営工学科に通っていましたが、企業から女性向けの募集はほとんどない時代でした。大学の教授が日立製作所の研究所から来られた方で、教授のところに日立のグループ会社から募集要項が来たのがご縁で面接に行き、内定をもらいました」
――当初から企業でキャリアを積み重ね、昇進していく夢を持っていましたか。
「当時は女性がキャリアを積んでいくことがイメージできる、今のような環境はなかったですね。腰掛けみたいな言葉があった時代です。面接の時に『何年働けるんですか?』と質問されて『定年まで働きます』と言ったら笑いが広がりました。先日ちょうど同期会があり、会社をすでにやめた女性の同期もたくさん来ていましたが、みんなそれなりに優秀な大学を出て会社に入っているのに、上司から『お茶入れて』としょっちゅう言われ、自分の未来が見えなくなったと当時を振り返っていました」
「女性だから大事にはされました。大事にされすぎて、厳しい仕事やきつい仕事は男性がやるという文化でした。女性は適度で楽な、いついなくなっても困らない仕事をやらされがちだったように思います。その辺りに違和感を覚えていました」
――具体的には、どのような仕事を担当したのでしょうか。
「お客様を相手にした展示会などの仕事が長く、当時は不満を感じていました。私たちが提供するITのシステムでは、もちろんプレゼンテーションも大事ですが、システムを作り、稼働したら保守するという全体のサイクルがあります。男性社員と同じように、その全てを経験したいと思っていました」
「産休から戻った30歳手前のタイミングで、新しい部署に移りました。扱うシステムは小さくなりましたが、全ての過程を経験できるポジションで色々な経験ができました」
――出産、子育てとの両立で苦労した点はありますか。
「いっぱいあります。子どもはかわいいし、家で泣いて『行かないで』なんてことも何度もあると、やはり後ろ髪をひかれる思いで泣きながら会社に行ったこともあります。出張で飛び回っていて、街でベビーカーを押した同年代の女性を見ると、なんで私だけ仕事をしているのだろうと思ったりもしました。あとは、やはり親戚とか地域社会は仕事することに対して非常にネガティブな意識が強い人が多く、否定的なことを言われることが多かったですね」
「父が早く他界して母一人だったので、娘が生まれた時点で母親に同居してもらい、おばあちゃんが親代わりをやってくれました。娘と今話すと、当時はいつも家にいなくて、家にいても仕事ばっかりしている人だったと。でも仕事が大好きで楽しそうにやっているように見えたようです。娘も今は働いていますが、仕事が夜遅くまであってもきついとはあまり思わないと言ってくれます」
――社内の職位が上がることで新たな悩みや難しさを感じることはありましたか。
「女性ならではの難しさがあるとすると、男女が均等であることをよしとしない人もいることでしょうか。ただ、価値観が違う人はたくさんいるので、女性ならではというほどでもないかなとも思います」
――入社当時から今日まで、女性の働きやすさという面では社内の制度はどう変わりましたか?
「制度はものすごく変わりました。私が娘を産んだ時は前後8週間の産休しかありませんでしたが、今は育児休業制度があります。働き方ではフレックス制度もありますし、在宅勤務や病児保育の費用の補助もあります」
「現にここ最近、子どもが生まれることを理由にやめる女性は激減しています。私の代だとまず25歳ぐらいで結婚しないと、なんであの子は結婚しないんだ?と言われたものです。親戚からも上司からも余計なお節介を焼かれるのが多分、日本の風習でした。今はそんなことを上司が言ったら、空気がよどんでしまうでしょう。色々な生き方が認められるようになってきましたね」
――女性登用の目標値を設定することについてはどう考えますか。
「私はいいと思います。過去ずっと(実力で女性が男性を)逆転していても、男性を昇進させてきました。それを是正するため、ある一定期間はやむなしではないでしょうか。もちろん本当に正しいゴールの姿は平等ですが、過去あまりにも長い間そうしてきていなかった。女性登用はやや逆差別に見えることもあるでしょうが、多少は仕方ないでしょう」
「社内にも女性の積極的な登用に否定的なことを言う人はいますが、若い女性社員にはキャリアを積むために結婚も子どももやめようと考えている人もいます。男性が幹部になるために、結婚や家庭を諦めるなんて話は聞いたことがありません。若い女性がいまだにそう考えている現状があることは、もっと真摯に受け止めないといけないと思っています。個人的には『すぐ結婚して、すぐ子どもをたくさん作りなさい』と伝えたいです。いつでもどうにでもなります。本人の努力次第で、すぐ追いつき、追い越せますから」
――富永さんのような存在は、社内の女性にとって目指すべき目標になるのでは。
「非常にモチベーションが上がりやすい環境ではあると思います。頑張れば自分もキャリアを積んでいける、そうなれるかもしれないという希望は持てますから。私の場合は何かを目指すと思ってはやっていませんでした。ただ負けん気が強いので、競合他社より認められて選んでほしいとか、目の前にあることにがむしゃらに取り組んできました。あとは上司や部下、職場の仲間が増えていくにつれ、その人たちの期待に応えたいという気持ちが強くなりました」
――女性役員として、ダイバーシティ改革を進めたいですか。
「もちろんです。やはり意識改革が必要、気づきを与えることです。知識を身につけても、組織文化は変わりません。制度をいくら作っても、気付いていただくしかない部分があります」
――女性の活用を進めるには、年功序列や長時間労働など、日本人の考え方そのものを変える必要もあります。
「そうですね。国内で成長が考えにくくなり、特に若い方は将来に対して不安を覚える状況です。もっと色々なものを共有することを国民全体が考えていけるようにならないといけません。決められたミッションだけをやる柔軟性のない働き方だと、今後大きく年齢構成が変わっていくなど、環境自体が変わるのに耐えられないのではないかと強く思っています。家事も仕事もシェアするべきです。それが普通になることが幸せではないでしょうか」
――キャリアウーマンを目指す女性たちに助言はありますか。
「役員になって最近気付きましたが、日常茶飯事、社内あちらこちらで失敗が起こっています。私も若い頃は失敗をすごく恐れていましたが、今の立場になると、そのぐらいの失敗なんてことないと思えます。目の前の失敗は自分自身の成長につながるので、恐れることはやめてほしい。たくさん失敗して、自分のキャリアに変えていけばいいんです。それは仕事だけでなく、結婚もチャレンジ、子ども作るのもチャレンジだと思います」
(聞き手は平野麻理子)
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