女性の就労促進、政府・企業・社会がすべきこと
キャシー・松井氏に聞く
Wの未来 やればできる
――日本は世界的に見ても女性の活用で遅れをとっています。
「女性の大学進学率が男性と同水準なのに、60%の女性が第1子を生んだ後に仕事を辞めています。その影響で25~54歳の女性の就業率は69%と、経済協力開発機構(OECD)加盟国34カ国中24位にとどまっています」
――2010年に出したリポートで、就労の規制緩和や育児手当の増額など女性の就労を促進するための『10の提言』をしています。
「どうすれば男女間の差を埋められるか考えました。この中で重要視したのはインフラの点で、保育施設や介護施設といったもの。女性が働き出す中で抱えている負担をアウトソース(外注)しないといけない部分です」
「もう一つは難しい部分ではありますが、入国管理の法律です。外国人の看護師や介護福祉士、ベビーシッターの受け入れを緩和するとともに、女性が彼らを雇いやすくするということです。フルタイムでの労働や出張などが多い女性にとっては、保育所などの一時的な支援では十分でないのに、海外と比べて日本ではこうした24時間体制のベビーシッターが普及していません。結局は母親が子どもを見ていないといけないという構造が変わりません」
――『10の提言』以外に、上場企業の女性管理職比率の開示も提案しています。
「2012年の内閣府の検討会議で、有価証券報告書での男女比率などジェンダー関連の情報開示を求めました。残念ながら合意には至らず、コーポレートガバナンス報告書での任意開示にとどまりました。女性の活用を進めるという課題に取り組む中で、まず現状の把握が必要です。グローバル化が進む中で人材競争に勝つためにも、開示は企業にとって負担ではなく投資だという認識を持つべきです」
――企業は女性活用のために残業を少なくする必要があるでしょうか。
「経営者によっても社員個人によっても考え方はそれぞれです。20代の独身の女性なら、制限なく働きたいと考える人も多いでしょう。一方で生産性を上げるために、一律で残業をなくすという考え方もあり、この議論は難しい」
「ある米国の非営利団体の調査で、興味深い結果があります。日米の女性に仕事を辞めた理由を尋ねると、介護や育児など別のことに『引っ張られた』と回答したのは米国女性に多く、仕事そのものの不満や行き詰まり感などに『押し出された』と回答したのは日本女性に多かったというものです。残業や育児の負担の大きさも原因ではありますが、企業内の支援の少なさにも問題があります」
――制度の整備だけが問題ではないということでしょうか。
「そうです。こういった議論ではどうしても政府の問題になりがちですが、もっと企業の取り組みにスポットライトを当てなければなりません。出産や育児で休職したから営業から内勤にしてしまう、などというのはもったいない。人材の評価方法も問題です。日本企業の多くはまだ実績よりも年功序列で、『長い時間働いた者が昇格する』という考えが根付いています。労働時間で人を評価してしまえば、女性だけでなく、外国人などマイノリティ(社会的少数派)の優秀な人材が逃げてしまいます」
「もうひとつは社会の理解です。日本社会は伝統的に『女性が働くと出生率が下がる』などといった言い訳をつけたがる傾向があります。日本社会が直面している少子高齢化や人口減少といったマクロの強い逆風の中で、結局この国にある資源は人だけ。この潜在力を最大化すべきです。政府と企業と社会が三角に手をつないで、みんなで共通理解を作って現状を良くしていけばいいのです」
――安倍晋三首相は女性の活躍促進を成長戦略の優先課題に位置づけています。
「トップダウンで政府が動くことは、制度や意識を変える良いタイミングになります。そこで企業は何をするのか、社会は何をするのか、まず何か取り組みをすることが大切です」
――子育て支援策として掲げた「3年間抱っこし放題」をどうみますか。
「いろいろな意見がありますが、男性が一層育児に参加しなくなってしまう懸念があります。スウェーデンでは出産時に国からの補助金を受け取る条件として、夫婦合わせて24カ月、それぞれが2カ月以上の休暇を取ることが決められました。男性が少なくとも2カ月間育児に携わることで、育児に対する理解が社会全般に広がりました。男女平等の社会を目指すなら、家庭内でも男女平等を目指さないといけません」
――強制的な制度を作り社会の考え方を変えるという意味で、一定比率の女性登用を義務付ける「クオータ制」はどうでしょうか。
「状況が非常に遅れている場合、必要な時もあるのではないでしょうか。例えば韓国では政党が補助金を受け取るのに、候補者の一定比率が女性でないといけない決まりです。女の子がテレビを見ていて、国会に女性がいれば自分の目指す場所としても感じられ、可能性も広がります。公的分野での導入は、そういったシグナル効果も大きい。永続的に導入する必要はなく、変化を後押しするためにまずやってみて、プラスの効果を見れば良いでしょう」
(聞き手は青木真咲)
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