変化への対応、女性に強み リーダー登用の課題は
妹尾輝男氏に聞く
Wの未来 やればできる
――日本企業は社長などのトップや取締役など幹部への女性の登用が遅れているのではありませんか。
「働く女性を増やすことと、経営の色々な局面で意思決定をするリーダーとなる女性を増やすことは、大きく違います。日本は少子高齢化で働き手が減るので、女性の就業率が上がれば、これを補う効果が期待できます。これには政治が主導する形でのインフラ整備が進められています。一方で女性リーダーを生み出すことは、今の日本は最も遠いところにあります」
「まず、トップになる女性がどこからやってくるのでしょうか。社内で見つけるのであれば昇進を早くしなければ、女性のリーダーはすぐには生まれません。しかし、昇進を早めることに多くの日本企業は抵抗感があります。一部の社員をエリートとして育てることも、ほとんど実践されていません。高い潜在能力を持つ人が腐らないようにするためには、一部の社員を特別扱いすることが制度化されなければなりません」
「海外では外部から女性のリーダーを招く例があります。しかし、日本企業は外部から経営幹部を招くということすら定着していません。競合する企業から人を招くことなんてめったにありません」
――そもそも今の日本企業はリーダーを女性にする必要に迫られているのでしょうか。
「女性の特徴を考えてみましょう。女性は伝統的なビジネスにとらわれず、男性中心の考え方にもとらわれません。一般にコミュニケーションをとる能力が高いです。英語ができる女性が多いことも考えれば、海外とのやり取りは得意とするところでしょう。ということは、変化に対応する能力は女性の方が男性よりも高いと言えるでしょう。例えばマーケティング分野などは変化に対してアイデアを出すという点で女性に向いています」
「ただ、現状のビジネスをより強力に進めていくということが企業の目的だとすれば、女性がリーダーになる利点はあまり多くありません。変化を求めるなら経営陣も女性がいいですし、昔ながらの事業を追求していくなら、ベテランの男性経営者が強みを発揮します。必要のないところに女性を押しつけても仕方がありません」
――女性に向いたポストはどういうものでしょう。
「例えば社外取締役は、広い視野から物事を考えることを求められます。新しい環境に向き合うという株主の要請に企業が応えるには、女性のプラス面を生かしやすいポストです。ただ、この点でも日本には社外取締役が本当に機能しているのかどうか、という問題があります」
「CEOのような経営トップに女性がいきなり就任できるわけではありません。まずは女性が力を生かしやすい分野でリーダーになってもらいます。人事部や広報部などでしょう。日本もそういうところから女性の登用を増やしていかなければなりません」
「日本企業はもう少し、エリートを肯定的にとらえるようになるべきです。一生懸命働き、経営幹部になっていくことが仕組みとして確立していなければ、女性はその道を選ぶことができません。働くだけ働いても登用されるかどうか分からないのでは女性にとって損です。将来のキャリア形成につながるルートがはっきり見えていれば、女性も子育てや家事が大変だという理由だけで仕事をやめてしまうことはないでしょう」
――日本企業は女性の登用に前向きに取り組みそうですか。
「変化への対応が死活問題というほどにならないと、なかなか進まないかもしれません。仮に女性を社長にしても、それだけで株価が上がるわけではありません。政府が女性の活用を目指しても、それで自社の経営も変えるというわけではありません。何となく、という気分だけで女性を登用するわけでもありません。自然発生的に女性の幹部が増えるわけではないのであれば、人工的に取り組むしかありません。時にばかばかしく思えるかもしれませんが、女性の登用に数値目標を設けることも1つの手段だと思います」
(聞き手は加藤修平)
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