受賞の商売価値は…世界の映画賞・映画祭ウラ事情
日経エンタテインメント!
米国の映画賞は、2014年3月2日に開催されたアカデミー賞がメーンイベントで、その前に前哨戦として、ゴールデン・グローブ賞、全米俳優組合賞、全米監督組合賞、全米製作者組合賞を主とした、各映画賞が発表される。多くの映画関連団体や批評家が優れた作品を選ぶとはいえ、秀作が年に何十本もあるわけではない。誰もが認める"秀作"は、事前におのずと絞られてくる。そのため作品賞の受賞作は、複数の映画賞で重なることが多い。
アカデミー賞の場合、例年12月ごろから映画会社がノミネートを目指して宣伝活動を行い、作品賞候補は9作に。そして1作に作品賞が授与される。2014年の場合、アカデミー賞の前哨戦では『それでも夜は明ける』『アメリカン・ハッスル』『ゼロ・グラビティ』の3作の受賞が重なり、アカデミー賞でもこの3本のノミネート部門数が最多と2番目で、賞レースを引っ張った。
近年、数ある映画賞でアカデミー賞の結果に最も近くなる賞が2つある。まず全米製作者組合賞で、2007年以降、アカデミー賞作品賞と全く同じ結果だ。もうひとつオスカーとのリンクが強まっているのが、英国アカデミー賞。こちらも2008年以降、同じ結果となっている。これら2つの賞の結果を見れば、3月のアカデミー賞作品賞の行方が見えてくる可能性が高い。
また、米アカデミー賞との関連で注目されているのがトロント映画祭だ。毎年9月に開催され、アカデミー賞の有力候補作が他の賞に先駆けて上映されるからだ。コンペ部門はないが観客賞があり、受賞作がアカデミー賞作品賞になることも多い。2013年は『それでも夜は明ける』が観客賞を受賞し、アカデミー賞の結果と一致した。
"前哨戦"が日本アカデミー賞の試金石とならない理由
一方、日本の映画賞は2014年3月7日に開催された日本アカデミー賞がメーンイベント。今回、前哨戦となる映画賞ではスポーツ4紙が『舟を編む』、ブルーリボン賞が『横道世之介』、キネマ旬報ベストテンが『ペコロスの母に会いに行く』を選んだ。そして日本アカデミー賞では、優秀作品賞(米アカデミー賞の作品賞候補作に該当)が『凶悪』『少年H』『そして父になる』『東京家族』『舟を編む』『利休にたずねよ』の6作で、『舟を編む』が最優秀作品賞を受賞。ブルーリボン賞の『横道世之介』、キネマ旬報ベストテンの『ペコロスの母に会いに行く』は、日本アカデミー賞候補作からもれた。
日本の傾向としては、米国のように前哨戦となる映画賞がアカデミー賞の結果の試金石とはあまりならず、それが2013年の受賞作にも顕著に表れた。前出の6映画賞の作品賞は『鍵泥棒のメソッド』『終の信託』『アウトレイジ ビヨンド』『かぞくのくに』の4作で、日本アカデミー賞は『桐島、部活やめるってよ』と、全く別の結果に。アメリカの場合、アカデミー会員と一部会員が重なっている全米俳優組合賞、全米監督組合賞、全米製作者組合賞があるためバロメーターになりやすいが、日本にはこうした業界の賞が存在しないため日本アカデミー賞と他の映画賞とのリンクが薄くなる。
米国の賞レースは「商レース」
また、米国のアカデミー賞が映画ビジネスの成否と密接に結びついている事情も、少数の作品が好評価を集め、もり立てられる背景にあるだろう。
近年のアカデミー賞は有力作が年末に限定公開、年明けに拡大公開されることが多い。12月ごろから「アカデミー賞有力候補」とPRすることで批評家の注目を集め、観客増に結び付ける戦略だ。その結果、映画賞を選定する米国の批評家は「1年間に公開された数百本から秀作を選ぶ」というより、「年末に公開された数十本から選ぶ」傾向が強まった。つまりアメリカでは、年末に公開する作品が"勝ちにつながる作品"というわけだ。
一方、日本では賞レースでの勝利がビジネスの好調と結び付いておらず、賞狙いで年末に公開することはない。アメリカのように「日本アカデミー賞有力候補」と宣伝する作品もない。1年に公開された数百本から選ぶため映画賞の作品数が増え、日本アカデミー賞とリンクしないことが多い。
(ライター 相良智弘)
[日経エンタテインメント! 2014年5月号の記事を基に再構成]
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