最遠の地は和歌山県 福島県が最北端、東端は千葉県銚子市
最も遠い地点は和歌山県だ。那智勝浦町にある色川富士見峠で、富士山から322.9km離れている。これが理論的にも実際に確認された場所としても最遠望の地だという。2013年元日公開の「東京23区から見える富士山、ベスト10は」でも書いたが、最遠望の地を巡ってはちょっとしたドラマがあった。
田代さんが電卓などを使って「富士山可視マップ」を作り始めたのは1986年から。テレビなどで「和歌山県が理論上の最遠の地」と伝えたところ、多くの愛好家が証拠写真を撮ろうと動き出した。
1997年には富士山から322.6km離れた地点で「証拠写真」が撮影され、これが決定版といわれてきた。しかし田代さんが「カシミール」を使って解析を進めた結果、「理論上はさらに300m遠い場所からも見えるはず」と指摘。そして2001年9月12日午前5時10分、ついに三重県の写真愛好家、仲賢さんと京本孝司さんが小麦峠(現・色川富士見峠)での撮影に成功。そこは田代さんが「予言」した場所だった。
距離はそれほどないが、国内で確認できる最東端は千葉県銚子市。富士山からの距離は198kmだ。最南端は八丈島で271kmある。
富士山が見えるのは20都府県 名古屋市からは見えない
田代さん作製の「富士山可視マップ」をみると、富士山がどこから見えるのかが一目瞭然だ。理論的には富士山が確認できる都府県は20(別表参照)ある。
このうち、京都府では「計算上はわずかに見える可能性がありますが、現時点で撮影に成功した例はありません」とのこと。ただし見えたとしても「かろうじて」というレベルだそうだ。
近いのに見えないのが名古屋市。よく「テレビ塔から見えた」との証言があるが、田代さんによると、富士山に似たシルエットの南アルプス・上河内岳を誤認した可能性が高い。「カシミール」を使って解析すると、山に遮られて見えないことがすぐ分かる。市内全域、どこからも見ることができないという。
では葛飾北斎の「尾州不二見原(びしゅうふじみがはら)」はどうなのか。底がない丸い桶(おけ)の向こうに富士山が見える構図から「桶屋富士」とも呼ばれる有名な浮世絵は、現在の名古屋市中区富士見町からの風景といわれている。しかしここからは今も昔も富士山は見えない、と田代さんは断言する。
実は、北斎が描いたのは南アルプスの聖岳ではないかとみられている。単なる誤認なのか、富士に見立てたのか、今となっては分からない。