世界文化遺産に登録された富士山で、5合目までの登山鉄道構想が持ち上がっている。河口湖から延びる有料道路を、鉄道に衣替えするという。山梨県の観光団体が打ち出した構想で、富士急行も乗り出している。富士山では過去にも山頂までのケーブルカーなど多くの計画があったが、実現には至らなかった。今回はどうか。富士登山鉄道の歴史と未来を展望する。
河口湖から5合目、有料道路を鉄道に衣替え
「河口湖から5合目まで延びている富士スバルラインを線路に変え、登山鉄道を走らせます。道路より鉄道の方が環境への負荷が小さく、世界遺産にふさわしいのでは」。富士五湖観光連盟の担当者は、登山鉄道のメリットを訴える。
観光連盟がまとめた構想によると、スバルラインの入り口に富士山麓駅を新設し、道路に沿って線路を敷く。一般車は道路を通れなくなる。総延長は30キロ。終点となる5合目駐車場までの間には、山麓駅も含め6駅を設ける。展望のいい場所を選ぶことで、観光客にアピールする狙いだ。事業費は600億~800億円を見込んでいる。
道路は完全につぶすわけではない。「緊急時や保守点検用に車両が通れるだけのスペースは確保しておく」という。線路は単線で、5カ所程度に行き違いができるスペースを設ける。
スバルラインはもともと自動車用に設計されているので、急カーブが多い。ここをどうするかが設計上の大きな課題だ。これについては「(反対方向に折り返す)スイッチバックも含め、勾配や急カーブに対応可能な方式の採用を検討している」とのことだった。
観光連盟がこの構想を打ち出したのは2008年。「冬場の観光をもっと盛り上げたい」との地元の声が原動力となった。冬場は降雪の影響で5合目まで車で行けない日が多い。鉄道であれば、一年中アクセスできる。
富士山の世界遺産登録をにらみ、ここ1、2年は積極的なPRを控えていたが、登録を機に再び盛り上がってきた。観光連盟の会長でもある富士急行の堀内光一郎社長は、登山鉄道を富士急と接続させ、さらにはJR線を使って成田空港ともつながる構想を提唱している。