動き回る猫、狙い目は食後 習性を利用し動物撮影
今回はiPhone(アイフォーン)で動物の撮影に挑戦。福島で動物保護活動を続ける松村直登さん(53)に動物とふれ合うコツを教わりながら、複数の市販レンズを使って動物写真を撮ってみた。動物たちのユニークな表情や動きを写真に収めるには、動きをよく観察し、習性を理解することが重要だ。
松村さんの自宅は福島第1原発から20キロ圏内の福島県富岡町にある。事故から2年以上、松村さんはあえて警戒区域内に住み続け、町内に残された動物たちに餌をやる活動を続けてきた。iPhoneを片手に、自宅に保護した犬、牛、馬、ダチョウなどの動物と暮らす松村さんの自宅を訪ねた。
■リラックスさせ魚眼レンズで
手軽で面白い効果を得ることができるのが、魚眼レンズを利用した写真だ。家電量販店で3千円前後で手に入れることができる。iPhoneのケースと一体になっているものがおすすめで、これを付けると周辺の風景が写り込み、極端に遠近感が強調されたゆがみ写真となる。
松村さんの馬を被写体に選び、馬の鼻先10センチにiPhoneをかざして撮影にトライ。しかし、馬は嫌がって顔を背けてしまう。松村さんに助けを求めたところ「まず、しばらく一緒にいてやんねえと駄目だ」とぴしゃり。いったんiPhoneを下ろして馬に話しかけながら頭をなでていると、次第に馬も落ち着いてきた。
ぽかぽかの陽気も手伝い、眠くなったのか馬の目も閉じかけてきた。ゆっくりとiPhoneを構えたところ、大きなあくび。すかさずシャッターを押し、ユーモアあふれる表情を撮影することができた。好奇心旺盛な猫などにも有効なレンズだ。
■習性見抜き望遠レンズで撮影
それでも相手は動物。こちらの気配を察知して近づいた途端に反応して逃げたり、こちらを威嚇してきたり--とうまくいかないことも多い。そんな時は、望遠レンズの出番だ。魚眼レンズと同様に家電量販店などで約4千円で手に入れることができる。大切なのは「動物の動きをきちんと観察することだ」と松村さん。
これらの牛は震災前に警戒区域内で飼われており国による殺処分の対象だったが、なんとか免れた群れで少しおびえがちだ。
松村さんのアドバイスに従いよく群れを観察すると、2匹の小牛がウロウロとしている。つい1カ月前に生まれた子牛だという。「こいつらは不安みてえでな、よく2匹一緒に寄り添うんだ」
しばらくすると小牛たちが並んでお互いの臭いをかぎ出した。あわててiPhoneを構えると、ちょうど逆光のタイミング。光線具合も良好で柔らかな写真が撮れた。
「動物に気づかれないように撮る」というコツは、睡眠中の犬などにも有効。松村さんが警戒区域内で保護した愛犬「石松」は人懐こく、寝ていても近づくとすぐに跳び起きてしまうが、望遠なら気づかれないまま撮影可能だ。
■特徴的な部位を撮影
動物たちを撮影する時に、全身像や顔などを中心に撮影してしまいがちだが、身体の一部をアップで撮影した写真は、その動物の特性を物語ることもある。取材当日に松村さんが保護した猫を被写体にして、足のアップなどを狙ってみた。
動き回る猫をiPhoneで撮影するのは難しいが、食事後に手をなめる瞬間など、猫ならではの習性を利用して撮影するのがコツだ。ちなみにこの猫たちの里親を募集中だという。
このように動物写真撮影のコツは、シャッターチャンスを待つ「忍耐力」と動物の習性を見抜く「洞察力」が必須だ。それに加えて重要なのが「動物を怖がらない気持ち」だと松村さんは話す。
松村さんの保護する動物のなかでひときわ異彩を放つのが2匹のダチョウ。福島県大熊町のダチョウ牧場から逃げ出した2匹で、松村さんが素手で捕まえたという。いざダチョウを目の前にしたところ、予想以上の大きさにひるむ。
途方に暮れていたところ「動物たちを必要以上に怖がらねえことだ。お互い対等な立場だと思わないと撮らしてくれねえぞ」と松村さんのアドバイス。勇気を振り絞ってiPhoneのシャッターを押したところ、ユニークな構図の写真が撮れた。
動物写真家の星野道夫は、テントで寝ているところをヒグマに襲われ死亡した。人間も動物も、時にはお互いの命を奪い合う対等な立場とも言える。松村さんが、放射能など一方的な理由による殺処分に反対する理由が、少しだけ分かった気がした。
(写真部 小林健・寺沢将幸)
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