撮影後の「隠し味」 アプリで見違える画像調整術
日経新聞写真部のカメラマンが「手軽なカメラ」iPhoneを使った本格派写真撮影のノウハウを伝授するシリーズ。今回は、画像調整アプリを使うことで写真を引き立たせる方法を紹介しよう。
出張や当直などで日ごろあまり家族を顧みない報道カメラマンにとって、子どもの運動会などは面目躍如のチャンスだ。自分の子の同級生が徒競争で活躍する写真を撮り、保護者にプレゼントしたりすると「プロの写真はやはり全然違う」と喜んでもらえる。でもこの時、「その写真のほとんどは画像調整してあるんです」と告白したら、驚かれるだろうか。
■「トリミング」で無駄なものをそぎ落とす
報道カメラマンは、撮影した写真について、新聞掲載に適した状態にしたりするために必ず事後的に画像調整している。保護者にプレゼントした運動会の写真も、実は、走る集団から同級生をトリミングし明度を補正した「調整済みの写真」だ。写真は画像調整することで飛躍的に見やすくなる。そこで今回は、無料のiPhoneアプリ「Snapseed」を使った画像調整術を紹介しよう。
「Snapseed」はかつて有料(450円)だったがグーグルによる買収で無料化したという事情もあり、無料とは思えないほど高機能なアプリだ。
まずは画面の一部だけを切り出す「トリミング」の方法。コツは無駄なものをどんどん省くこと。例えば上の子猫の写真。周囲が写真に写り込みすぎているため散漫な印象だ。そこで「Snapseed」を起動し、左に並ぶツールバーから「CROP(トリミング)」というアイコンをタップ。2本の指で構図を調整し、思い切って猫のアップになるまで周囲をそぎ落としてみると、子猫のあどけなさがより強調された印象的な写真になった。
■バランス調整には「曲がり補正」
「曲がり補正」も報道カメラマンが必ず行う画像調整の一つ。水平に撮っているつもりでも、写真にしてみると誤差が拡大してしまうことが多い。オフィスから望む夜明け前のスカイツリーを素材にしてみたところ、地平線などが、少し右下に傾いている。
そこで今度はツールバーから「STRAIGHTEN(曲がり補正)」を使用。指先で右回し、左回しして傾きがなくなるように配置してみよう。地平線が写真の上下枠と平行となり、全体にバランスのとれた美しい写真となった。
■「明るさ補正」光量不足に対応
報道カメラマンは、ホクロやしわを消すなど意図的に修整を加えることはご法度だが、明るさを調整することは多い。デジタルカメラが使われる以前のフィルムカメラ時代も、暗い場所で容疑者逮捕の瞬間や、フラッシュ使用が禁止されている屋内スポーツなどで撮った写真を、無理やり増感(画像の濃度をあげること)させて現像し、感光させる時間を延ばして光量不足に対応していた。
「Snapseed」画面内の「TUNE IMAGE(画像調整)」をタップし、更に画面をタップすることで現れるメニュー内の「輝度」を選択。画質を確認しながら明るさを補正することができる。展覧会の薄暗い会場内で撮影した写真の明るさを変えてみると、その差は歴然だ。
また写真用語で「眠い写真」と表現される、白と黒のコントラストが低く全体的にぼんやりとした写真も、アプリで画像調整が可能だ。アプリの「TUNE IMAGE(画像調整)」をタップし、メニュー内の「コントラスト」を選択。コントラストを上げればメリハリが出て、写真は見やすくなる。
■一枚の写真から無限の表現へ
新聞写真の基本は「分かりやすさ」と「現場で見た光景の再現」。写真部のオフィスでは日々、ずらりと並んだパソコンにカメラマンが座り、同僚カメラマンが現場から送信してきた写真を、ミリ単位でトリミングし、明度やコントラストを細かく調整し、新聞紙面に最適な画像にしている。
一方で、「いい写真」が必ずしも適切に処理されたものとは限らないのも写真の面白さ。意図的な曲がり、極端に高かったり低かったりするコントラスト、わざと崩したカラーバランス--など、風変わりな写真が撮影者独自の表現方法になることもある。
画像調整によって一枚の写真から無限の表現を生み出せる。自分のお気に入りの表現を探すことも、写真の醍醐味の一つといえるだろう。
(写真部 小林健・寺沢将幸)
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