西太后が愛した名料理の数々が現代に復活
西太后といえば、中国近代史に名を残す女性。小柄できゃしゃな体のいったいどこに、激烈な政争をくぐり抜け宮廷内に君臨し続けるパワーを秘めていたのか。誰もが抱くであろう謎の一端を垣間見ることができるレストランが、東京・六本木にある。
店の名は「レイ家菜(レイは、がんだれの中に萬、以下同)」、オーナーは清王朝の高級官僚だったレイ子嘉氏の曽孫に当たるレイ愛茵さんだ。子嘉氏は長らく西太后の家常菜(日常の食事)を管理する立場にあり、その際に逐一記録していたレイ家伝来のレシピを現代の食材を使って再現し、コーススタイルで供している。
西太后の食卓には毎回、贅(ぜい)を尽くした150~300点の料理が並んだという。「レイ家菜」のコースも前菜だけで20品。さらに、主菜、スープ、デザートと続く。「中国には、あらゆるものを少しずつ食べることで健康を保持すべし、という考え方があるのです。もちろん、中国全土からえりすぐりの食材を集めて皇帝の権威を誇示しようという意図も含まれていたと思いますが」と愛茵さん。
清王朝の宮廷料理は、鹿肉が重用されるなど満州族らしい一面もうかがえるが、西太后は子嘉氏が発案した、写真の「翡翠(ひすい)豆腐」が大層お気に入りだったという。
「翡翠豆腐に限らず、西太后の家常菜は一見シンプルに見えますが、召し上がっていただけば、素材の持ち味を生かしつつ実に繊細かつ上品な味わいになっていることが分かります。うま味調味料は一切使わず、季節感や栄養バランスに配慮しているのも特徴ですね」(愛茵さん)。
中国・北京の胡同(路地)にある自宅を改築した本店は、かの地では珍しい隠れ家風。六本木ヒルズ内のこの店も看板を掲げていない。しかし、重厚な扉を開けるとロビーには愛新覚羅溥儀の弟・溥傑による店名の揮毫(きごう)や、西太后の衣装のレプリカが飾られており、一瞬、自分が博物館か美術館にいるかのような錯覚に陥る。
ロビーのほかにはレイアウトの異なる個室が3室のみ。いかにも、門外不出のレシピを味わうにふさわしい。
DATA
東京都港区六本木6-12-2
六本木ヒルズ けやき坂通りレジデンスB棟3階
TEL: 03-5413-9561
営業: 11時30分~14時30分、18時~20時30分(いずれも最終入店)、水曜昼休み(夜は営業)
メニュー: ランチコース6300円~、ディナーコース1万500円~
[日経おとなのOFF2013年7月号の記事を基に再構成]
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