「地球に優しい」食べ方 完全菜食主義がNYで増加
米国NPの診察日記 緒方さやか
非営利組織で働く20代の痩せ形の女性が、「最近、手足がしびれるんです」と言ってやってきた。このような主訴でやってくる若いアメリカ人の患者さんに、私が必ずする質問がある。「Are you a vegan or a vegetarian?」
菜食主義の人は昔からいたが、ここニューヨークでは近年、非常に増えている。ロハスやオーガニックといった流行と共に、 環境に良く、体に良い(ということになっている)菜食主義は、中流・上流階級の間ではやり始めているライフスタイルなのである。2013年の年末には、ビヨンセとJay-Z(アメリカで人気のラッパー)がクリスマスまでの22日間、完全菜食主義(ビーガン:乳製品や卵も食べない主義)を貫き通し、毎日の食卓をブログで公開して話題になった。
しかし、動物性の食品をまったく食べないと、ビタミンB12が不足することがあり、まれだがしびれなどの症状を起こすことがある。肉は避けても乳製品と卵は食べるベジタリアンにはめったにないが、それらも全く口にしないビーガンではまれに見ることがあるのだ。冒頭の患者さんもビーガンであった。血液検査では、ビタミンB12のみが異常値(低)であったので、ビタミンB12(1000mcg/日)の服用を始めてもらった。
ところで、みそやしょうゆをよく使う日本食ならともかく、いわゆるアメリカンな食事でビーガンを貫こうとすると、どんな食卓になるのだろうか?
ニューヨークにはベジタリアン向けの食品がいっぱい
ニューヨークの自然派スーパーに一歩足を踏み入れると、豆腐でできたチーズ風の食品を始め、菜種油でできたマヨネーズ風調味料、亜麻の種でできた卵の代替品などが並んでいて、ビーガンピザも食べられる。
ミルク類にいたっては、ざっと見ただけで、豆乳が数種類、ライスミルク(米のとぎ汁を甘くしたもの)、ココナッツミルク(飲めるように薄めたもの)、オートミルク(燕麦(えんばく)を絞ったもの)、ヘンプミルク(麻を絞ったもの)、アーモンドミルクなどが、専門店でなくても、普通のスーパーで手に入るのは、さすがマンハッタンである。ビーガンのレストランも、少ないが増えてきた。
2013年11月の感謝祭(サンクスギビング)の日、普通に肉も魚介類も食べるわが家がビーガンの友人から誘いを受けた。場所はもちろん、リベラルな人の集まる、今人気のブルックリン。ビーガンということは、卵と牛乳アレルギー持ちのわが息子も食べられるものばかりだということだ。七面鳥の丸焼きのない感謝祭パーティーとは一体どんなものか?とワクワクしながら行ってみた。
メニューを紹介しよう。メインは七面鳥(ターキー)風味の大豆製品、トウフ―キー(Tofurky)。それからトマトとバジルのスープ、ジャガイモと野菜のコロッケの豆乳クリーム添え。アスパラとニンニクのグリル。デザートは、豆乳のケーキに、ココナッツクリームがトッピング。どれも、なかなかの美味であった。
参加者は全員ビーガンと思いきや、様々なレベルで「地球に優しい食べ方」を実践している人々だった [注]。元はベジタリアンだったが、ビーガンの彼女ができてから卵と牛乳もやめたという男性。肉は食べないが魚は食べる「Pescatarian(ペスカタリアン)」。そして、ニューヨークタイムズが2013年4月に取り上げて話題になった、フレキシブルな「Flexitarian(フレキシタリアン)」。例えば、ペルー出身のNは、アメリカではベジタリアンの毎日を過ごしているものの、一時帰国中は、誰もベジタリアンなんて分かってはくれないし、何しろ懐かしい故郷の料理なので、肉も食べるそうだ。
私自身がベジタリアンやビーガンになる可能性はまずないだろうが、たまに肉のない食事を選択することは、何となく良いことをしているようで楽しいし、どうやら胃にもお財布にも優しいようだ。週に1回だけベジタリアンになることを勧める「Meatless Monday」という運動もあることだし、今年は挑戦してみようか、と思い始めている。
婦人科・成人科ナースプラクティショナー(NP)。2006年米イェール看護大学院婦人科・成人科ナースプラクティショナー学科卒。「チーム医療維新」管理人。プライマリケアを担うナースプラクティショナーとして、現在、マンハッタンの外来クリニックで診療にあたる。米ニューヨーク在住。
[日経メディカルオンライン 2014年1月21日付記事を基に再構成]
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