米国では「胴が長い」のもチャームポイント
米国NPの診察日記 緒方さやか
日本で女性であることは、大変だ
日本から妹が訪ねてくる時に、女性誌を買ってきてもらった。
その雑誌を眺めていると、「美しいひざ」特集が組まれており、数々の美しい足、およびひざの写真が載っていた。「ひざ上のお肉を減らすエクササイズ」「ひざの形を良くする鍼治療」などの見出しを読みながら感じたのは、「いやはや、日本で女性であることは、大変だなあ」ということ。本当にため息が出たのだ。お腹は引っ込めて、胸は出して、天然に生えている毛を生まれつき生えていないかのようなふりをして、爪も理想の形とやらに近づけて。さらには顔色をファンデーションで整えて、膝まで気にしなくてはいけないとは! 思わず、正座文化の日本人らしく、ちょいと曲がった不格好な自分のひざをしげしげと眺めてしまった。
日本人女性失格、と言われてしまうかもしれないが、こんな記事に、自分の体をあるがままに愛せない理由を、今更もう一つ増やされたくない(そうでなくても、女性は自分の体をたやすく自己批判してしまうものなのだ!)。それに、いくら自分のひざが曲がっているように見えても、画像ソフトで修正されているかもしれないモデルのひざと比べて落ち込むのは馬鹿馬鹿しい。そんなことより大切なものがあると思いたい。
米国でも美容は大きな市場だ。ダイエット薬は処方箋が必要なものから、インターネットで買えるかなり怪しいものまで、そろって売れ行きは良いようだ。歯並びや歯の白さに対するこだわりは日本人の比ではないし、脂肪吸引や豊胸手術の人気も上がりっ放しだと聞く。女性誌もダイエット特集ばかり。ただし、米国の女性誌は日本ほど細やかな内容ではないし、「これこそが美しい身体です」などと標準化されていることは非常に稀だと思う。人種、体型、髪の質などがあまりに多様なために、これが絶対の美の条件だ、とは宣言しにくいのだろう。
美意識は文化によって異なる
クリニックには、確かに「やせたい」と訴える患者もたくさん来院する。だが、同時に、BMIが正常値であっても 「太りたい」という希望の人もたまにいる。
友人に「やせっぽち」とからかわれ、「体重を増やすために一生懸命ファーストフードに通うようにしています。できるだけ食べているのですが」と真面目に悩みを打ち明けたアフリカ系アメリカ人の女の子がいた。バスケットボールが大好きな、いたって健康な19歳だったが、太っていないために「自分は女らしくない」と、悩んでいたのだ。
アフリカ系の友人によれば、「ラブ・ハンドル(ウエスト周りのたっぷりした脂肪のこと)がなければ、セクシーじゃない。男性もやせていたらかっこ悪い」のだそうだ。確かに、米国でアフリカ系に人気を集める有名人は、男女ともかっぷくの良い人が多い。美意識も文化によって違うのだ。
胴が長い、一重、鼻が低いとほめられて
美意識の違いと言えば、まだ米国に来て数年しか経たない頃、サウスキャロライナ州出身の友人とお互いの洋服を試着しあっていたら、しみじみと羨ましがられたことがある。「いいな~、サヤカは。胴が長くて」「え…えっ?!」「お腹が出ても目立たないもんね。私なんか、胴が短いからすぐぽっこり出ちゃうよ~」。その時は呆然としたが、それ以来、鼻が低くてうらやましいだの、片目だけ一重なのがいつもウィンクしてるみたいでセクシーだのと、ばっちり二重&鼻の高い友人たちから、誉め言葉を頂戴し、隣の芝は青いものだなと、つくづく悟ったのである。
さて、冒頭の雑誌の「ひざ特集」を読み終えてすっかり自分のひざに自信を失ったころ、夫に「私のひざ、どう思う?」と聞いてみた。すると、「は? ヒザ? どう思うって、どういう意味?」と呆然とした返事が返ってきた。パソコンやら、食べ物やらに関しては非常にうるさい彼も、私のひざに関して特に評価を下したことはないようである。良かった。それでこそ私のダンナだ。
私は、この一対のひざをあるがまま受け入れようと思う。私自身さえ気にしなければ、胴長でも、鼻が低くても、楽しく人生を生きていけるだろう。少なくとも、ひざの形を気にして暗くなるよりは、ずっと楽しい人生を。
婦人科・成人科ナースプラクティショナー(NP)。2006年米イェール看護大学院婦人科・成人科ナースプラクティショナー学科卒。「チーム医療維新」管理人。プライマリケアを担うナースプラクティショナーとして、現在、マンハッタンの外来クリニックで診療にあたる。米ニューヨーク在住。
[日経メディカルオンライン 2011年9月2日付記事を基に再構成]
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