企業に女性役員が必要な理由 大和証券グループ本社・鈴木茂晴会長
ここが違った!女性が活躍する企業、ダメな企業(1)
2009年4月、大和証券グループで女性の役員を4人同時に誕生させたのが、同社で当時社長を務めていた鈴木茂晴現会長。いずれも生え抜きの40代の女性で、社外取締役を除くと大手証券会社では初の女性役員となり、業界の話題をさらった。
鈴木氏は2004年に社長に就任して以来、一貫して女性の登用を進めてきた。その意図は何だったのか。
「理由の一つは、優秀な女性が十分に活躍できていなかったことです。営業担当者で男性と同じくらい成績を上げていても、昇進、昇格が遅かったり、ボーナスや給料も上がらないままの女性が少なくなかった」
そこで鈴木氏はまず、「担当顧客の数や規模に左右される販売額ではなく、新規の顧客や預け入れ資産を獲得できた人を評価する」という新たな指標を作った。
「女性はそうした仕事が得意ですから。"それなら私にもできる"と、彼女たちのモチベーションを高めることにつながったと思います」
当時、支店の女性が法人の顧客を担当できなかったことも、女性の活躍の幅を狭めていたと振り返る。
「支店では地方銀行などの法人は重要な顧客です。しかしそうした法人顧客は代々、男性が男性に引き継いでいて、女性が担当することはなかった」
さらに画期的だったのは、全国の支店の法人営業担当の3分の1を女性にしたことだ。「女性の法人営業が全国で1人か2人程度では、うまくいかなかったときに"だから女性はダメだ"と言われてしまう。そうならないためには、数が必要。全国で30人もいれば、女性同士で横のつながりもできるし、競争意識も生まれる。男性と同じような状況に持ち込むことが重要だと考えたのです」
現場からの抵抗は強かったが、そこは社長自ら責任を取る姿勢を示すことで乗り切った。
「『女性に担当させて万が一何か問題があった場合も、支店長の責任にはしない』と言った。その一言で、一気に登用が進みましたね。社内に優秀な女性社員が大勢いたため、成功する自信がありました」
いったん任せてしまえば、女性だからといって売り上げが落ちることはなく、顧客側から「うちの担当は女性じゃないの?」と言われるほど、大和証券の女性の法人営業担当の存在は浸透していった。
2009年に女性役員を4人登用したときも、「数が必要」という考えがあった。
「女性を1人役員に登用するだけでは"象徴"になってしまい、本人も苦しむ。4人一度に出せるまで時機を待っていた」
2011年にも女性執行役員を1人登用。2013年には女性役員の1人が海外子会社である大和証券キャピタル・マーケッツ・アメリカInc.の会長に就任した。
「皆、高い意識と責任感を持った女性たちなので、ほかの役員の男性と何ら変わることなく力を発揮しています」
優秀な女性を外部から登用するよりも、長く会社に貢献してきた生え抜きの女性社員を役員に昇格させることが大事だと考える。
「会社が女性を活躍させようという本気度は、人事に表れる。しかも、単に数を増やすだけでなく、誰が見ても『この人なら』という人材しか、うちは登用しない」
19時前退社の励行
もう一つ、鈴木氏が女性の登用を進めた理由には、企業としてのビジネスモデルの変化があるという。
「会社が大きく成長する段階には、時には社員が残業もいとわず、夜中まで働き詰めになることもある。当社にもかつてはそういう時期があった。しかしここ10数年の間に証券会社のビジネスモデルが"お客様の資産形成にじっくりアドバイスするサービス"へと変化した。この環境下で成長を遂げるには、女性の力が不可欠だった」
そうした考えから実践したのが、「19時前退社」の励行だ。皆が遅くまで残業する態勢では、女性は体力的に不利になり、子育てしながら力を発揮することも難しい。
「理由のない残業をなくすことで、生産性が上がり、男性も女性も働きやすい会社になる。結果、会社へのロイヤルティーが高まるという好循環が生まれる」
さらに、出産などで退職した女性営業員が5年以内なら同じポジションに戻れる制度を設け、社内結婚した夫婦も同じ支店に勤められるようにするなど、社内の制度や慣習を次々と改革していった。
「女性は、結婚・出産などで仕事を辞めざるを得ない場合がある。"だから女性は"と登用を尻込みされないよう態勢をしっかり設けることが重要だ。その代わり、男性にも女性にも成果を厳しく求めるようにしている」
そこにあるのは、女性を優遇するのではなく、人材の価値を公平に見る視点だ。
「男性でも女性でも、優秀な人材をしかるべき役職に登用して、能力を発揮してもらいたい。女性だからという理由で不利にならないために、ここまで態勢を整えてきた。能力のある女性に責任ある立場を担ってもらうことで、彼女たちがますます力を発揮できる土壌ができる。働き方が変化しているなか、男女を問わず人材の力を最大限に引き出して、企業価値を高めることが求められていると思います」
(日経ウーマン 藤川明日香)
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