技術職・総合職を確保せよ 模索する企業と女学生
女子就活模様(上)
「多くの女性社員が育児休業などを活用しています」「5年以内の離職率はわずか3%です」――。1月に都内で開かれた大学の理系学部に通う女子学生(リケジョ)対象の就職セミナー。100人以上の学生が、参加21社の説明を聞いた。
万能細胞研究の「小保方さん効果」で一躍脚光を浴びるリケジョ。ただ、理系や技術系の職場は男性が圧倒的に多い。働き続けられるかという学生の懸念の払拭に企業は必死だ。
■「活躍できる会社ですか」
ソフトウエア開発のクレスコは、今春の新入社員約40人のうち女性が約3割。来春は4割を目指す。「社員の女性割合は2割弱。比率を増やすため、女性に積極的に受けてほしい」と話す。「出産して辞める人はほとんどいません」と訴えたのは自動車部品のジヤトコ。今年から女子学生向けのセミナーを始める。
設計や開発の段階から女性の意見を反映させようと各社は採用に力を入れる。だが、理工学系の学部に通う女子は全体のわずか14%。売り手市場で学生の目は厳しい。
「今どき、育児と仕事を両立する仕組みがない会社なんてないでしょ」。女子学生には両立のための制度は織り込み済み。学生が企業選びで重視する点として声をそろえたのは「いかに多くの女性が活躍しているか」だ。
ある建設機械メーカーのブースでは学生と若手女性社員が車座になり、質問を受け付けた。
学生「技術者として活躍する女性は何人いらっしゃいますか?」
社員「私の同期は1人。更衣室が1人で使えていいよ(笑)」
学生「……え」
別の社員「いやいや、私の同期は6人。1割はいます。男性ばかりという印象ではないですよ」
学生たち「……」
問われるのは実績。しかし"活躍"以前に先輩女性の人数が少なく、学生を納得させる回答ができない企業も多い。
昨年12月、汐留に拠点を持つ電通、富士通、パナソニックなど9社が共同で、主に総合職を志望する女子学生向けセミナーを初めて開いた。人気企業が並ぶが「まだまだ男職場という印象が強い。生活者へのサービスを提供する企業として、活躍する女性社員を増やしたい」(電通)。全2回で520人が集まった。
「女性も海外出張や転勤をしています」(日本通運)、「本当にやりたいと思える仕事がどれだけあるかが大事です」(三井化学)。あえて福利厚生の説明はほとんどなし。性差なく活躍したいと考える学生を引き付けようと、企業側は仕事のやりがいを訴えた。
ただ、ここでも学生側から出たのは両立している人がどれだけいるかを問う声。「制度があっても使えない会社もありますよね」「結婚直後に海外転勤になることもあるんですか」。将来の幹部候補となる女性を採用したい企業と学生の意識は微妙にすれ違う。
「総合職でバリバリ働いて結婚したら辞める」か、「長く続けるなら一般職」と、二者択一の将来像を描く学生は多い。早稲田大学の川本裕子教授は「育児と仕事の両立はまだまだ難しいと受け止めているだけ。意識が低いと言うのはお門違い」と言い切る。「女性が活躍できる企業が増えないと、学生は働き続けるイメージを抱けない」
総務省が31日に発表した労働力調査によると、子育てによる離職者が多い35~44歳の女性のうち就業者と求職者が占める割合(労働力率)は13年平均で71.4%だった。初めて7割を超えたが、この世代の労働力率をさらに上げることが、中長期的な経済成長率の底上げには欠かせない。
■不安解消へ発信相次ぐ
就活生の不安解消のため、情報提供の動きが広がってきた。昭和女子大学は昨年「女子学生のためのホワイト企業ランキング」を発表した。女性の平均勤続年数や男性育休取得者の有無などを基に、銀行業とサービス業の「女性の働きやすさ」をランク付けした。坂東真理子学長は「現状では女子学生が企業を判断する情報が乏しい」と語る。
経済産業省も昨年、多様な人材が活躍できる企業を評価する「ダイバーシティ経営企業100選」を発表した。選定では女性が「働き続けやすいか」だけではなく「活躍しやすいか」も重視した。
坂本里和経済社会政策室長は「女性は子どもを産む可能性があるので、特に就職時で企業を正しく選ぶことが重要」と、女性管理職数やその伸び率の確認を勧める。
内閣府も31日、ホームページで上場企業の約3割にあたる1150社について、社員や役員の女性比率や人数、女性登用の目標の有無などを公開しはじめた。
企業も実績を効果的に訴える。ダイバーシティ経営企業に選定された日産自動車は、07年から事務系で5割、技術系で15%の女性採用目標を掲げて達成。学生向けのテクニカルセンター(神奈川県厚木市)の見学では、園庭のある同社の保育施設も案内。将来のイメージを持てるよう工夫する。
既に活躍している女性の実績が問われる一方で、これから実績を作ろうとする企業も多い。その「卵」となる女子学生をどう確保し、育てるのか。学生は、企業に働く人などに直接会って話を聞き、現状を知る努力が大切だ。それ以上に、企業は制度だけではなく風土の改革を本気で進めることが必要となる。
■OG取材、学生が舞台作り
学校や学生主体で女性の働き方を知る取り組みもある。東京大学は昨年末、卒業生団体と協力してセミナー「キャリアと結婚と育児を考える」を開き、ワーキングマザーの卒業生と学生が対話した。
参加した2年生の田原早耶香さん(20)は「働きながら子どもとの時間を持つ工夫などが聞けた。今心配しすぎなくても、結婚や妊娠をした時には様々な選択肢があるから大丈夫と思えるようになった」と話す。
田原さんは企画側にまわり、大学に次回開催の支援を要請している。大学も「就職活動だけではなく、生活設計も踏まえてキャリアを考える機会を増やしたい」(キャリアサポート室)と、学生と卒業生の橋渡しに前向きだ。
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