「数合わせ登用」を越えよ 旭化成・伊藤一郎会長に聞く
――あえて数値目標を設定しないのはなぜか。
「女性の管理職や役員をいつまでに何人にするとか、女性比率を何%に引き上げるといった数値目標を設けると、目標を達成するために『数合わせ』になってしまいかねない。それでは意味がないからだ。大切なのは、総合職として採用した社員は性別に関係なく、経験を積ませ、幹部候補者に育成していくことだ」
「旭化成グループには執行役員が64人いるが、今はすべて男性だ。50~60歳代が中心で、入社年次でみると、15年次にまたがっている。1年次につき3、4人、つまり同期で1%程度しか執行役員になっていない。ポストにふさわしい経験や能力、実績のある女性社員がいないのに性別優先で登用しても無理が出てくる。この『1%』に将来、女性社員が性別に関係なく入ってくるようになってほしいと思っている」
――どうやって女性の幹部候補者を育成しているのか。
「1993年度に人財・労務部に『EO推進室(現ダイバーシティ推進グループ)』を設けた当初、係長以上の女性管理職は5人だけだった。それが今では370人まで増えた。もちろん女性を特別扱いせずに。来春入社する予定の新卒総合職に占める女性の割合は約25%だ。彼女たちが育ってくれれば、管理職は着実に増えていく」
――せっかく育てても、出産などを機に辞める女性は日本では多い。
「優秀な女性社員にはずっと働き続けてもらいたい。それには待機児童を抱える都市部の保育インフラの整備は急務だが、会社にもできることはある。当社は仕事と家庭生活の両立を支援する様々な制度を導入しているが、実際に利用する社員たちの声を吸い上げ、利用しやすいように制度を改善し続けている」
「育休明けに短時間勤務制度とフレックスタイムを併用しながら復帰する人もいれば、出産後はできるだけブランクを空けずにフルタイム勤務で復帰する人もいる。利用者目線で使いやすい制度にし、復帰した社員にも経験を積む機会を与え、仕事のおもしろさを味わってもらう。93年度に8.5%だった女性の離職率は今では2.8%まで下がった」
――なぜ女性の管理職の育成に取り組むのか。
「当社は化学や繊維、建材、エレクトロニクスなどのほか、食材包装フィルム『サランラップ』や住宅も手掛けている。今後は女性の消費者を意識した製品開発が重要になる。人口減による将来の労働力不足にも備えなければならない」
――製造業では、キャリアが途切れがちな女性の登用は進んでいない。
「我々製造業は長期雇用を前提に男性中心に正社員を雇い、社内で養成して競争力を高めてきた。キャリアが途切れがちな女性は活躍しにくかった。だが、これからは経済の成熟化やグローバル化に合わせて雇用慣行も"モデルチェンジ"しなければ勝ち残れない」
「当社は年功賃金の色彩を薄める制度改革を2008年から本格的に進め、社員の意識がかなり変わった。改善し続ければ組織は変わる」
(聞き手は女性面編集長 阿部奈美)
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