5.2L怪物エンジン アウディーのスーパーカー2代目
アウディジャパンは2016年3月26日、フルモデルチェンジした新型「R8」の発表会を富士スピードウェイで行い、受注を開始した。販売開始は7月5日からで、価格は2456万~2906万円だ。
2006年に欧州でデビューし、翌年、日本で発売されたアウディR8は、新型で2代目となる。今回日本では標準モデルの「R8 V10 5.2FSI quattro」と上級モデルの「R8 V10 5.2FSI quattro plus」の2タイプを投入。注目は出力が向上した5.2LのV10エンジンおよび新開発のクワトロフルタイム4WDシステムの搭載、そして新世代のアウディ スペース フレーム(ASF)を採用していることなどだ。
先代より10kg軽くなったフレーム
先代のイメージを踏襲するエクステリアは、シャープさを強調したデザインになっている。
ボディーサイズは、全長4426×全高1240mm×全幅1940mm。全長と全幅は先代とほぼ同等だが、全幅のみ約40mm拡大されている。それでも、アルミと炭素繊維複合材料(CFRP)を組み合わせた新開発のASF(アウディスペースフレーム)により、フレームそのものの重さは先代より10kg軽い、200kgに収まっているという。
5.2LのV10DOHCエンジンは全面的に刷新
ミッドシップ(後車軸の前)に収まる5.2LのV10DOHCエンジンは全面的に刷新。2種類あり、スタンダードとなる「R8 V10」のエンジンは、最高出力540ps/8250rpm、最大トルク540Nm/6500rpmを発揮する。一方、上級グレードの「R8 V10 plus」のほうは、最高出力610ps/8250rpm、最大トルク560Nm/6500rpmと、さらに出力が向上している。R8 V10 plusの実力は、0-100km/h加速は3.2秒で、最高速度330km/hに達するという。
また両エンジンには、環境負荷低減と燃費向上対策として、5気筒を休止させる「シリンダー オン デマンド(COD)」や、55km/h以下でアクセルを緩めた際にエンジンと駆動系を切り離す「コースティングモード」、停止時にエンジンを止める「スタート&ストップシステム」も備えている。
トランスミッションは、デュアルクラッチトランスミッション(DCT)タイプである新開発の7速Sトロニックを採用。さらに標準搭載のAWDシステム「quattro」も刷新して、前後のトルク配分をより素早く、より幅広い範囲で制御できるようにした。
センターコンソールのディスプレイがなくなったインテリア
インテリアの最大の変化は、センターコンソールのディスプレイの廃止だろう。メーターと各種インフォメーションが表示できる、12.3インチのTFTディスプレイのメーターパネル「アウディ バーチャル コクピット」を全車に標準採用したおかげで、ドライバーはメーターパネルから視線を外さずに、車両からのさまざまな情報が得られるという。これによりダッシュボード中央のスイッチは、エアコンの操作パネルなど最小限に留められている。
オールマイティーなR8 V10、パフォーマンス重視のR8 V10 puls
エンジンのスペック以外では、2つのモデルで、リアスポイラーの形状や、アルミホイールのデザインとサイズ、ブレーキシステム、シート形状など仕様が異なる点がある。言わばR8 V10はスタイリッシュにまとめられたオールマイティーなクルマ、R8 V10 pulsはエンジン性能の向上に合わせて、各機能を強化し、より走りを磨いたサーキットユース向きのクルマということになるだろう。
生産は新たに建造された新工場でハンドメイドなので、初年度の日本導入台数は100台に限定される。価格はR8 V10 5.2FSI quattroが2456万円、R8 V10 5.2FSI quattro plusが2906万円。どちらもステアリングは左右を選択できる。
"スポーツイメージ"をアップしたい
新型R8の導入の発表と共に、サブブランド「Audi Sport」の展開も合わせて発表された。アウディのモータースポーツ活動のために創設されたAudi Sportは、近年、WEC(FIA世界耐久選手権)やDTM(ドイツ・ツーリングカー選手権)などにも参戦しながら、プライベートチームへの「GT3」マシンの供給を柱としてきた。今後は、モータースポーツ関連だけでなく、R8やR8の下位に当たる高性能モデル「RS」の販売、Audi Sportブランドグッズの開発や販売も行っていくという。
日本市場では、まずは店舗の一部に専用スペースを備えた「Audi Sport Store」を全国で展開し、店舗内でR8やAudi Sport関連商品の展示や販売などを手がける。Audi Sport Storeは2016年度中に24店舗をオープンし、順次拡大していく予定。またアウディの"スポーツイメージ"をより浸透させ、高めていくという。具体的にはRSの性能をさらに向上した「RS Performance」の投入、新型R8をベースに開発したGT3レーシングカーである新型「R8 LMS」を使用して今シーズンのスーパーGTに参戦する2つのプライベートチームを支援するなどの取り組みを行う。
ポルシェやランボルギーニのライバルとなれるか
スタイルや機能の先進性で日本でも人気を得てきているアウディだが、モータースポーツで培われた4WDシステム「Quattro」などの、従来のアウディファンが共有していた技術的なバックボーンやスポーティーなイメージを知らないオーナーも増えているのも確かだ。
そこで、スポーティーさを強調し、独自の世界観と性能の高さをしっかりアピールし、新たなユーザーを固定ファンへと育てたいのだろう。
他のドイツブランドの高性能モデル、例えばメルセデスのAMGシリーズやBMWのMシリーズと比べると、アウディのRSの存在感はまだ薄い。そして、RSの上に位置する「R8」は、アウディの高性能モデルの頂点に立つ存在だ。そのためライバルは、かなりの強豪ぞろいで、ポルシェ「911ターボ」やランボルギーニ「ウラカン」、フェラーリ「488GTB」などのスーパーカーたちとなる。新型も「2016ワールドハイパフィーマンスカー」に選ばれるなど世界から実力を認められる存在といえるが、日本市場での人気はそれらより一歩劣るのも事実。しかも新型は価格も先代より高くなっており、ライバルたちとの価格面での優位性はかなり狭まった。アウディ自体の販売も人気の中心はコンパクトなモデルで、上位モデルはまだこれからテコ入れが必要といえる。日本で急成長中のアウディだが更なるシェア拡大を図れるのか、実力が試されるのはこれからだ。
(ライター 大音安弘)
[日経トレンディネット 2016年4月4日付の記事を再構成]
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