こうすれば楽になる 関係が悪い母とのつきあい方

日経DUAL

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仕事も子育ても、一生懸命がんばりたいのに、うまくいかずに疲れてしまう。そんなあなたに心理カウンセラーの下園壮太さんがくれる処方箋とは――。今回は、子育てをする中で湧き上がってくる「母親への複雑な思い」との向き合い方をテーマに考えていきます。

「よかれと思って」の母親のアドバイスに傷付く

あなたは今、お母さんとどんな関係にありますか?

子育てをしていると、子ども(母親にとっては孫)を介したやり取りが増えてきます。食べさせるもの、塾のこと、しつけについて……ささいなことでぶつかり、イライラしている人も多いかもしれません。

様々なクライアントと接する中で、子育て中に生じる母親との葛藤は、自らの母親がかつて専業主婦だった場合と、忙しく働いていた場合とで少しパターンが異なるように感じています。

(1) お母さんが専業主婦だった人=自責感を助長する

専業主婦として子育てを最優先してきたために、「子育てはとても大切なこと」という価値観を強く持っている。子育てよりも仕事を優先させている娘をじれったく思ったり、責めたりする傾向にあります。

(2) お母さんが忙しく働いていた人=がんばりが足りないと叱咤する

子育てしながら仕事を続けてきた自負心から、「自分のときはもっと大変だった」と苦労話をすることが多い。また、子育てで悩んでいても、「あなたのがんばりがまだまだ足りないのでは?」と叱咤する傾向にあります。

いずれのパターンでも、責められる側はつらいものです。

子育てしながら仕事をしている人は、日ごろから「自分の子育ては中途半端ではないか」という罪悪感を大なり小なり抱えているかもしれません。この罪悪感を、母の何気ない、例えば「それ、作らずに買ったの?」といった一言が刺激するのです。

「罪悪感」を刺激されると、その対象を「恨む」ようになる

親の側はなんの迷いもなく「よかれと思って」と、あれこれ投げかけるアドバイス。ところが、受け取り手のあなたは、疲れていて、そのアドバイスをポジティブに受け取ることができない状況にあります。

特に子どもが幼い時期は、日ごろから慢性的な睡眠不足で、仕事の疲れもたまってくる。子育ては自分の思うようにいかない。すると、精神的に軽いうつ状態になってくることも。人はうつ状態になると罪悪感を強める、という特徴があります。そんなときに、追い打ちをかけるように自分の子育てを責める言葉を母親が投げつけてきたとしたら、どうでしょう。

人間は、自分を葛藤させる要因を作る対象を嫌いになります。

ちょっと前までは普通に話していたのに、母親からの着信があるだけで、胃がきゅっと痛くなる、話をするとどんよりする、その存在が、重くなる――。

これが友達や他人との付き合いであれば「もう付き合わない」という選択をすることによって、その関係から解放されることも可能ですが、親子関係ではこのような明確な対処法を取るのが難しい。好きでも嫌いでも、その関係はずっと続いていくから、葛藤が深くなるのです。

最も効果的なのは「刺激のコントロール」

母親との関係に行き詰まったとき、どうすればよいとあなたは思いますか?

「母親との関係を見直し、分かり合えたら……」そう思うのは当然ですね。ただ、こじれた親子関係を結び直すことは、相当に難しい課題です。

恐らく、親子が近いDNAを持っているからでしょう。親子は常に、「ままならない、もう一人の自分」と向き合っているようなものだから、互いを放っておけないし、それぞれの思いを強く要求してしまうものなのです。

でも、こんなもやもやした状態は嫌だ、楽になりたい。そう思ったときに最も効果的なのは、「刺激のコントロール」、つまり、葛藤を抱く“お母さん”という刺激対象から距離を置くことです。

直接会う回数をできる範囲で減らしてみる。電話はできるだけ手短に切る。直接会話する電話よりも、メールにする。こんなふうに、刺激の回数を減らし、その強さも弱めていくのです。刺激から解放されるだけでも、気持ちをいくらか、楽にすることができます。

ママ友=戦友と思いを分かち合おう

母親と距離をとるだけでは自分の苦しみは軽くならない、と思いますよね。

その通り。この連載でも繰り返しお伝えしてきた通り、感情は「その人に何らかの行動をさせるために発動する」という仕組みを持っています。

母へのイライラや怒りは「相手にぶつけたい」という強いエネルギーをはらんでいます。それを無理やり押さえ付けると、恨み記憶はどんどん増幅し続けるでしょう。

親子関係で悩んでいるときは、過去ばかり見つめたり、相手の言葉を反すうしたりするなど、一対一の関係性の中であれこれ考え続けるために、視野が狭まりがち。これでは圧倒的に「問題解決のための情報量が不足している」状態です。

気持ちを切り替えるには、視野を広げ、情報量を増やすことが必要。感情を力づくで抑えるのではなく、その行動は必要はない、と思わせるような情報を感情の源である無意識に与えればいいのです。例えば誰かと話をすると、お母さんのことも少しは客観的に考えられるようになります。

そこでおすすめなのが、同じように子育てで苦戦している戦友=ママ友と情報を分かち合うことです。同じような悩みを多くのママ友が抱えています。「自分だけの悩みではないんだ」というのも、感情が落ち着く情報の一つです。

一人の時間に行いたい「自分に寄り添うワーク」

ここまでお話ししたような「行動」を起こすことができないほど疲れ切っているときは、あなた自身のケアを最優先にしなくてはいけません。

私は、自らの心のケアを行うときには次のような3ステップの方法が必要だと考えています。

ステップ1 「疲労ケア」
ステップ2 「気持ちケア」
ステップ3 「ものごとのケア」

この、ステップ1からステップ3までの順番をきちんと守ることが大切。1と2をはしょっていきなりステップ3の問題解決を行おうとしても、空回りをするだけなので注意してください。

ステップ1の「疲労ケア」は、しっかり眠る、おいしいものを食べる、といった対処で自分の疲れを癒やすということ。今回お話しした「刺激のコントロール」、つまり母親と距離をとるということも、心身を休めるためにとても大切なことです。

ステップ2の「気持ちケア」は、普段我慢している気持ちを表現すること。がんばり屋の人ほど、気持ちを抑え込もうと我慢し過ぎて、その結果、爆発して、子どもに当たってしまったり、夫婦関係が悪くなったりするという事態に陥ることが多いのです。気持ちにフタをせず、こまめにフタを開けましょう!

気持ちを紙に書くのもいいでしょう。ママ友に話すのもいい。気持ちにぴったり当てはまりそうな本を読んだり映画を見たりするのもいいでしょう。

時には夜、一人のときに、「自分に寄り添うワーク」で、自分と向き合って気持ちを整理してみてもよいでしょう。ポイントは、たとえどんな気持ちであっても、「そう感じてはいけない」と責めないこと。どうしても人は、自分の思いを正当化しにくいときに「親に育ててもらったのだから感謝すべき」などと理屈でその思いを抑え込もうとしがちだからです。これではあなた自身の心は「分かってもらえた」とは思えません。

ステップ1とステップ2を行うだけでも、心身のエネルギーはずいぶん回復するでしょう。母親との関係性を見つめ直すのは、それからでいいのです。傷付き方の深さやパターンによって、やり方は様々ですので、拙著『母が重い!』(※プロフィール参照)を参考にしてみてください。

下園壮太
1959年、鹿児島県生まれ。防衛大学校卒業後、陸上自衛隊入隊。筑波大学で心理学を学ぶ。1999年より、陸上自衛隊初の心理幹部として、多くのカウンセリング経験を積む。陸上自衛隊衛生学校メンタルヘルス教官として、衛生科隊員にメンタルヘルス、自殺防止、カウンセリングなどを教育する。2015年退官。惨事ストレスに対応するNPOメンタルレスキュー協会のシニアインストラクターとして、講義、チーム支援などを継続して担う。近著に『学校では絶対に教えてくれない 自分のこころのトリセツ』(日経BP社)、『母が重い!しんどい「母と娘の関係」を楽にするヒント』(家の光協会)などがある。

(ライター 柳本 操)

[日経DUAL2016年1月25日付の掲載記事を再構成]