家でも私はCEO 4人の娘にルールを徹底させる
エイデンアンドアネイCEOインタビュー
通気性が良い素材のモスリンコットン。大判の白地に柔らかな色で描かれた動物や花などのモチーフが散りばめられている。
2児のママとなった英キャサリン妃や、ジェシカ・アルバ、サラ・ジェシカ・パーカー、ナオミ・ワッツといったハリウッドのセレブママ達が好んで使うことで知られる「エイデンアンドアネイ」のおくるみ。報道写真やゴシップ写真で、腕に抱いた赤ちゃんをおくるみで包んだり、上からかけたりするスターの姿を目にすることは多い。
最近は日本でも、街行くベビーカーの多くにこのおくるみがくくりつけられているのを見かける。もし友人や身近な人が出産することになったら、お祝いにこのおくるみを渡せば間違いがないだろう。
米国で創業したエイデンアンドアネイは、今や世界65か国以上で事業を展開し急成長中だが、実はおくるみの商品化は2006年とその歴史は新しい。創業者はオーストラリア出身のレーガン・モヤ・ジョーンズ。アメリカで出産した際に、オーストラリアで伝統的に使われてきたモスリン製の柔らかいおくるみが見つからなかったことが、会社設立のきっかけとなった。
そんな勢いある企業のトップでありながら、レーガンは12歳、10歳、8歳、5歳とこちらも成長盛りな4人の子どものママ。常人には想像もつかない両立生活だが、一体どのように実現しているのだろう。来日したレーガンにその秘訣を聞いてみた。
一度決めたルールはむやみやたらに曲げない
「家でも私は"CEO"なんです。家族の動きをプランニングしています。自分達で構築した時間のルールを大切にしていて、それがあるから家の中がすべてうまく効率的に回っているのではないかと思います」
ジョーンズ家において、CEOの言葉は絶対である。22時に就寝と決めたら、子ども達はどんなことがあっても22時にベッドに入らなくてはならない。キッチンの電気を消す時間、歯みがきする時間も決まっているので、その時間後に「キッチンで何か食べてもいい?」なんて聞く子がいてもCEOは許さない。
「基本、『ノー・ネゴシエーション(交渉の余地はない)』ですよ(笑)。ダメなものはダメと揺るがないほうがいい。本当は許すほうが簡単だし、ほしがったものをあげてしまうほうが簡単なんです。でもそこはしつけだと考えて頑張っています。子どもが18歳(アメリカでは成人)になるまではボスは私だと子ども達には伝えています」
特に子どもが小さいうちは、つい甘やかしてしまうこともあるのが普通だろう。だがレーガンは、小さいときから日常生活の決まり事を守ることや時間の大切さを家で教えてあげることが大切だと話す。
「身についた習慣はその後の人生ずっと続くから。子どもは小さくても色々なことが分かっています。大人は分かっていないと思うようなことでも、たくさんのことを分かっていると思います。一度決めたルールはむやみに曲げないことが大切です」
子どもは親を選べないから、常にフェアでありたい
レーガンの一日のスケジュールはこうだ。起床は朝6時。9時に娘達を全員学校に送り出した後、会社に向かう。家から会社までは歩いてほんの5分の距離。「だから時間の節約になって、とても助かっているんです」
仕事に一区切り付けて会社を出るのは19時くらい。21時半くらいまでは娘達と一緒にごはんを食べたり宿題を手伝ったり、今日の出来事を話したりと、家族の時間を過ごす。それから娘達を寝かしつけた後、22時くらいからパソコンをつけて再び仕事に戻る。
「私には2つのアイデンティティーがあります。自分の娘達といるときは100%子育てに集中して、会社にいるときは100%会社に集中します。自分の性格上、両方を同時に同じ程度扱うというのはできないので、このように2つの顔を使い分けるしかない。残念ながら体は1つしかないので、米国式に言うと"2つの帽子をかぶり替える"ということをしているんです」
仕事と子育てをきっちり分けている理由には、忙しい母親を持ってしまった娘達への深い思いがあるようだ。
「もちろん、家に仕事を持ち帰って夜中に仕事することも、会社で子ども達について考えることもあります。でも、子どもは親を選べません。娘達は私のような忙しい親を選んで生まれてきたわけではないので、子どもには常にフェアでいるように対応したいと思っています」
夫は私の一番のファンで一番の理解者
会社ではCEO、そして家庭でもボスであるレーガン氏の苦労は並大抵のものではないだろう。両立生活になくてはならないのが夫の存在だ。ジョーンズ家では夫も積極的に育児に関わってくれる。
「夫が家庭内のすべてのことを一緒にやってくれることも、この生活が維持できている理由の一つですね。子どもにごはんを食べさせたり、お風呂に入れたりするのは彼がやってくれる。彼のサポートなしに4人の子どもを育てるなんてそもそも無理でしょう」
共働きである以上、夫も育児の半分はやって当然だと思ってしまうところだが、夫を立ててやる気にさせるのがレーガン流。会社で人を動かす地位にある人ならではの人心掌握術だろう。
「夫は私と対照的な存在。MBAを二つ持っていて、博士号も持っています。つまり成功を約束されたキャリアの人なんです。一方、私は学校でもそんなに良い成績ではなかったし、大学もドロップアウトしたくらい。でも彼は私の一番のファンでいてくれ、一番サポートしてくれています。家庭内の物事を決める際は、一緒に決めるようにしています。夫がアイデアを出し、そのアイデアを基に私が舵を取るという役割ができているんです」
エイデンアンドアネイは来年、創業10周年を迎える。
「今、自分が挑戦していることは、ビジネスを始めた当初から変わってきています。もしも間違った選択をしたら、発生するコストは当初は数百万円などの小さい規模だったのが、今はとても大きなものになってしまいます。日々、一つ一つの選択を慎重に行わなくてはと思っています」
(ライター 福村美由紀)
[日経DUAL 2016年1月5日付記事を再構成]
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