「うるさい、クソババァ」突然の反抗に慌てない

日経DUAL

小学校に上がると親子関係はあっという間に次のステージへ。10代前半から始まる“思春期”も子育ての大きなテーマ。「いつかは来る、わが子の思春期」を上手に乗り切るために、知っておきたい親子のコミュニケーションのポイントを探ります。思春期を迎える子どもたちと長く接してきた2人の専門家に話を聞きました。

ママ、ママ…とあんなに甘えん坊だったわが子が、ある日突然、まさかの捨てセリフ、「クソババァ」を吐き捨てる――。

いつか来るかもしれないこの瞬間に味わうであろう喪失感を想像するだけで切なくなるという親は多いだろう。

単純に褒めるだけではうまくいかなくなる

思春期というと小学校高学年くらいからというイメージがあるが、早い子では小学校中学年からその兆候が見えてくる。あるいは小学校に入るか入らないかという早期から、「単純に褒めるだけで素直に言うことを聞いていたのに、反抗されることが増えてきた」と戸惑っている人もいるかもしれない。

思春期、プレ思春期の「わが子の変化」に対応するために、親として準備しておきたい態度とはどのようなものなのか。

公立中学校で19年間「保健室の先生(養護教諭)」として経験を重ね、現在、一般社団法人生涯学習開発財団の認定コーチとして思春期の子どもに対する向き合い方の指導を行っている三浦真弓さんが日ごろからアドバイスしているのは「親側の意識の切り替え」だ。

10歳から芽生えてくる「親を疑う」意識

「小学校3~4年生ごろになると、親の言うことを100%受け入れるのではなく、『そんなこと言っているけど、本音は違うでしょ?』『世の中ってお母さんやお父さんが言っているのとは少し違うみたい』と“親を疑う”意識が芽生えます。ターニングポイントの目安となるのは10歳。

7つ、8つ、9つと「つ」で数えられる年齢を脱してティーンエージャーとなったころから、親自身が子どもの変化を受け入れる体制を整えていきましょう」

親側が子どもの変化を理解する受け皿を用意していなければ、動揺が子どもにも伝わって、無用な距離が生まれてしまうという。

学校のことを話してくれないときは…

思春期の初期によくある子どもの行動としては、例えば「学校のことをあまり話してくれなくなる」といったことがある。

そんなときにはむやみに聞き出そうとせずに「見守る」態度を貫く。「口は出さなくても、“関心”は示し続けて。態度は素っ気なかったとしても、子どもは親が自分に関心を持ってくれることを望んでいます。“見守る”というと『何もしなくていいんですか?』と質問されることがありますが、“見放す”と“見守る”は違います。『最近、○○ちゃんは元気?』など子どもの友人関係に対する興味などさりげなく伝えるといいと思います」

門限を過ぎて遊ぶ日が続いた時には、子どもの行動を問い詰めて終わるのではなく、「心配した」という気持ちをしっかり伝えよう。「~~べき」という説教・説得よりも、「(親として)私はこう感じた」という気持ちや感情のほうが、子どもは受け入れやすくなる。

部屋が散らかるのは一つのサイン

「きちょうめんな性格だったはずなのに、部屋がぐちゃぐちゃに散らかるようになった」といった生活習慣の変化が表れることも。ただ、これはごく当たり前のこととして「長い目で捉えるほうがいい」と三浦さん。

「思春期は、『どんな大人になろうか』と迷う時期。その迷いはそのまま生活の至る所に表れます。部屋が散らかる子、髪形を突然変える子、音楽の趣味が変わる子など、“迷い”の表れ方は十人十色。親としては『この子はただ迷っているだけ』と冷静に受け止め、嵐が過ぎ去るのを待つのが賢明です」

学校生活に支障が出そうなくらい行き過ぎていれば、期限を設けるのも一つの方法。「今年の間は何も言わないけど、年が明けたらそろそろ学年が上がるんだから少し考えてね」など伝えてみるのがおすすめだという。

子どもが離れて寂しい親心の切り替え

思春期を迎えると「子どもが急に離れていくようで寂しく感じる」という親も少なくない。親としても子離れが必要な時期だが、なかなか気持ちの切り替えが追い付かないのである。

この寂しさを乗り切るための考え方として、三浦さんは「夫婦回帰」を提案する。

「子どもが小さいときは夫婦の会話も子ども中心で、お互いの日常や将来についてじっくり話す時間はほとんど取れませんよね。子どもに注いでいた関心を少しずつパートナーに戻していく。まずは夫婦の会話にかける時間を出産前のレベルまで戻すよう努めてみてください。両親がよく会話している、という情景は思春期の子ども達にとっても“安心して帰れる家庭”のベースになります」

子どもの心の支えになる「第3の大人」

「子どもが親から離れ始める思春期ならではの役割」として、特定非営利活動法人放課後NPOアフタースクール代表理事の平岩国泰さんが提案するのは「第3の大人」がもたらす効果だ。放課後の小学校を活用して子どもたちが多様な体験を重ねる「アフタースクール」を実践している平岩さんは、プレ思春期・思春期の子ども達の心の支えになるのが、親・学校の先生に次ぐ「第3の大人」であることを実感してきたという。

「例えば、サッカークラブのコーチや尊敬できる塾講師といった“師”のような位置付けとなる大人の言葉は、思春期の子ども達には非常に響くようです。『親の言うことを聞くのは何となく嫌。でも大人にはなりたい』という微妙な気持ちに応えてくれる、社会人としての先輩と出会えるチャンスを子どもにできるだけたくさん与えるといいのではないでしょうか。私たちはアフタースクールで『市民先生』と呼んでたくさん招いています」

アフタースクールの活動を始めて間もないころ、平岩さんが体験した実例としてこんな話がある。

「頼りにしている」――尊敬できる大人からの一言が子どもを変える

小学4年生のユウキ君(仮名)はおとなしい性格で、学校での勉強やスポーツが苦手。性格も幼く、クラスの中で気後れして、両親も心配していた。あるとき、アフタースクールの活動として料理の職人を招いて和食を学ぶプログラムにユウキ君は参加した。参加児童の中で一人だけ高学年だったユウキ君は市民先生に呼ばれ、皆の前でこう言われた。

「君が私の一番弟子だ」

以来、料理の進行の補助役としてユウキ君は市民先生の手伝いをするようになり、何回かプログラムを重ねるうちに市民先生からこう声を掛けられた。「君がいてくれないと困る。今日も頼むよ」。

尊敬する人に必要とされた経験はユウキ君を変えた。プログラムを終えた3カ月後には、ユウキ君の表情は見違えるように明るくなり、学校生活でも自信を取り戻していったという。

「この子は今、応援が必要なのだと、きっと市民先生は見抜いていたのだと思いますが、尊敬すべき大人から『頼りにしている』『君がいないと困る』という言葉をもらったことはユウキ君の自己肯定感を大きく育てたのだと思います。思春期の子どもには、このように大人の仲間入りをして、「あなたがいて助かった」という声をかけてもらうことが非常に効果的だと感じます。たとえ直接の言葉がなくても、様々なフィールドで活躍する大人との出会いは、将来に対する希望や『こんな素敵な大人になってみたい』というイメージを膨らませると思います」

三浦真弓
コーチング・マーム代表。公立中学校養護教諭(保健室の先生)として19年間勤務。保健室に来る生徒など3000人以上の心の声を引き出してきた。2010年より、成長する親子を応援するコーチングセミナーを開催するコーチング・マームを主宰。PTAや保護者会等でのセミナー講演や電話、スカイプ、メールを使った個別コーチングで思春期の子どもを持つ親の相談に乗る。養護教諭、中学校・高等学校教諭1種(保健)、NPO法人あいちかすがいっこ理事、一般財団法人魔法の質問キッズインストラクター、生涯学習開発財団認定コーチなど。2女1男の母。
平岩国泰
特定非営利活動法人放課後NPOアフタースクール代表理事。文部科学省中央教育審議会生涯学習分科会専門委員を歴任。自身に子どもが生まれたことをきっかけに「放課後」の過ごし方に危機感を感じ、「アフタースクール」の活動を開始。長女の小学校入学のタイミングで会社を退職し、NPO法人に専念。2005年の活動開始以降、「アフタースクール」では、400種類以上のプログラム、2000人以上の市民先生が生まれ、5万人以上の子どもが参加。グッドデザイン賞・キッズデザイン賞をそれぞれ3回ずつ受賞。

(ライター 宮本恵理子)

[日経DUAL 2015年11月2日付記事を再構成]