思春期の「父の下着と別洗い」が起きない家族の秘訣
「何でもママやパパと一緒がいい」だったはずのわが子が、背が伸びるにつれ口数が減り、家の中で一人で過ごすことが多くなって…。もしかして、これは…? ついに来た、わが家にも「思春期問題」が。いつか来るそのときに、子どもとどう向き合っていいか分からずに戸惑ってしまう親は少なくない。
「イクメン」の浸透で、父親も子育てにコミットする雰囲気が高まっているとはいえ、育児に積極的な父親のイメージは「オムツ替えをする」「お風呂に一緒に入る」といった、乳幼児期の関わり方に偏りがち。思春期問題はどちらかというと母親に委ねるパターンが多く、そもそも「父親と母親が協力し合って、夫婦で一緒に子どもの思春期を乗り切る」ための知識はほとんど共有されていないのが現状だ。
思春期問題は夫婦で話し合い、夫婦でバランスを取るもの
そんななか、2014年9月に発足したのが、父親がわが子の思春期にいかに向き合うかをテーマにしたプロジェクト「Stand by Me Project~思春期プロジェクト」。プロジェクトを主宰するNPO法人コヂカラ・ニッポン代表の川島高之さんは、「わが子の思春期に直面したとき、父親の多くは戸惑います。思春期は子どもの自尊心を育て、自立を促すための重要な時期ですが、親が過干渉・過支配でいつまでも子ども扱いしたり、逆に、接し方が分からずに面と向かうのを恐れてコミュニケーションを諦めてしまったりするのは残念です。子ども達が自尊心を高め、自立した社会人に育っていくためには、思春期特有の悩みを父親同士が共有し、役割を再認識する機会が必要」と話す。
とはいえ、どう接したらいいものか。何を話しても無関心そうな子どもの姿を目の当たりにすると、「親から話しかけないほうがいいのかな?」「どこまで、ほうっておけばいいの?」と悩ましいもの。特に父親は「男親があまり口を出すべきじゃない」と、荒れ始めたわが子と距離を置くことが少なくない。それが母親の目には"逃げ"として映り、「大変な時期を私だけに押しつけて!」と不満を抱え、夫婦関係もギクシャクするといった展開もよくあるパターンだろう。
父親好きな子どもは中高生時代に「父親が自分の話を聞いてくれていた」
「父親が子どもと良質なコミュニケーションをするか否かは、その後の信頼関係に深く影響します」というのは、昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員で社会学博士の臼田明子さんだ。臼田さんは、全国の20代男女946人を対象に、中高生時代の父親との関係について聞く調査を実施。
「父親を好きか」という質問に対し、「好き」「どちらかというと好き」と答えたのは37%、「何とも思わない」が37%、「嫌い」「どちらかというと嫌い」は26%という結果となった。
父親に対する「好き・嫌い」と、「(中高生時代に)父親が話を聞いてくれたか」という質問の結果の相関性を調べた結果、「父親を好きと思うかどうかと、父親がよく話を聞いてくれたかどうかには、明確な関係性があることが分かった」(臼田さん)。
「父親を好き」と答えた人の父親のイメージを聞くと、男女共に「子育てが得意な人」「信頼できる人」「家事が得意な人」「仕事熱心ではない人」が上位に挙がった。「仕事熱心ではない人」というのは「家庭を顧みない人」の対極として、しっかり家族に向き合っているという意味だろう。
一方で、「父親を嫌い」と答えた人の父親像の上位は「尊敬に値しない人」「暴力的な人」「暴言・嫌みを言う人」「酒好きで嫌だった」。わが子の反抗に対する暴力・暴言は、親子の信頼関係に傷を付けると言えそうだ。
話を聞いてくれる父がいる家庭は「思春期の娘の下着・別洗い問題」が起きにくい
さらに、臼田さんが注目したのは、「洗濯物問題」だ。思春期の女子によくあると言われる、「お父さんのパンツと私の服を一緒に洗わないで!」という父親にとっては悲しいばかりの現実。しかし、調査の結果、一筋の光が見えてきた。
「実際に、父親と洗濯物を分けていた女子は12%。父親が話をよく聞いてくれたかどうかで見てみると、『父親が話をじっくり聞いてくれた』グループの別洗い率が9%だったのに対し、『父親は全く話を聞いてくれなかった』グループの別洗い率は38%にもなりました」(臼田さん)
つまり、子どもとコミュニケーションをしている父親は、「娘に洗濯物を分けられるリスク」を回避しやすくなるというわけである。ちなみに、男子に関しても「父親と自分の洗濯物を分けていた」という回答者は女子と同じ12%いたという。
臼田さんはこの調査の前に複数回行った聞き取り調査でも、「親に話を聞いてほしいという子どもたちの切実な思いを感じた」という。
では、子どもたちはどんな話を聞いてほしいのか。親に求めるコミュニケーションとは何なのか。忙しい共働き夫婦だからこそやるべきことはあるのか…。親から子へのコミュニケーションというと、積極的に話しかけたり、話題を提供したりというイメージを持つ人が多いかもしれない。しかし、臼田さんが調査の過程で子どもたちから集めたニーズは、「ただ話を聞いてほしい」というものだったという。
「その日の学校での出来事や、友達とのやりとり、今一緒に見ているテレビの感想など、本当にたわいもないことですが、子どもたちは"今日、身の回りで起きた出来事"について親に聞いてほしいと思っています。日常の何でもない話を親はいつでも聞いてくれる。それが『親は自分のことをいつでも受け入れ、理解してくれる存在』という安心感につながるようです。繰り返しますが、コミュニケーションといっても子どもたちは父親の武勇伝(仕事での自慢話)などを聞きたいわけではありません。とりあえず、しばらくは子どもの話にじっと耳を傾けてほしいと思います。そうすれば、そのうちきっと、『お父さんのときはどうだったの?』などと子どものほうから聞いてくるでしょう」(臼田さん)
逆にやってしまいがちなのが、「宿題を早くしなさい!」「お風呂に入って寝なさい!!」「遊んだら、片づけなさい!!!」と"to do"ばかりを言い続けたり、子どもの意思を聞く前から「あなたは中学校を受験する気がある? だったら、準備をしないと。お友達は塾に行っているの?」と一方的に質問攻めにしたり、というパターン。これでは、子どもが口を挟む隙を見つけられずに、「お母さんとお父さんは、全然話を聞いてくれない…」と心を開かなくなってしまう。これらの点に注意して、子どもとはコミュニケーションをとる必要があるだろう。
昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員。慶應義塾大学卒業後、夫のオーストラリア海外赴任に帯同するためNECを退職。子育ての傍らシドニー大学大学院修士課程に入学し、ジェンダー論を学ぶ。留学中に第2子を妊娠し、休学して出産。その後論文を書き上げ、卒業。ニュー・サウス・ウェールズ大学大学院博士課程修了、博士号(PhD)を取得。社会学博士。博士論文はドイツの出版社から出版。著作は共著で「子どもの放課後を考える」(2009:勁草書房)、「学童保育指導員の国際比較」(2014:中央法規)等。論文、学会発表、講演等多数。川崎市のボランティア子育て支援員を務める。
(ライター 宮本恵理子)
[日経DUAL 2014年12月18日付の記事を基に再構成]
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